49 リンゼア出現

 ずずず……。


 前方の空間に黒い亀裂が走った。


 ばちばちぃっ!


 同時に青白いスパークが走り、亀裂の向こうから何かが現れる。


「こいつは――」


 僕は背筋がゾクリとするのを感じた。


 ゲーム内でこれとまったく同じエフェクトを見たことがある。


「ふうっ、人間界の空気は好きになれんな、あいかわらず……」


 黒いマントをまとい、黒いタイツのような全身スーツを着た細身の男だ。


「な、なんなの、こいつは――」


 プリセラがうめいた。


「モンスターじゃない……でも、人間でもない……!?」

「――全員、下がれ」


 キリカさんが前に出た。


 学生のみんなには分からなくても、彼女はさすがに知っているようだ。


「こいつは……」

「魔族……!」


 僕はうめいた。


 そう、こいつは魔族だ。


 空間に走る黒い亀裂と青白いスパーク……そこから空間を超えて、この世界に現れるというエフェクトがゲーム内と全く同じだった。


 このゲーム内では異世界に住む伝説の種族という設定であり、人間を大幅に上回る魔力を備えている。


 雑兵クラスであっても、だいたい平均的な魔術師の五倍から十倍くらいの魔力は持っているはずだ。


 まして、こいつはおそらく――。


「少なく見積もっても下級……いや、おそらくは中級か」


 キリカさんの頬から汗が伝う。


 Sランク冒険者の彼女が、最大限に警戒しているのが分かった。


 実際、ゲーム内でも中級魔族はかなりの強敵だ。


 というか、下級魔族でもレベルをある程度上げていないと瞬殺されてしまうくらい強い。


 こいつの強さは、キリカさんの見立て通り中級なのか……!?


「下級? 中級? 随分と甘く見られたものだ」


 男が傲然と言い放った。


「この俺は――高位魔族。名をリンゼアという」


 高位魔族……!?


 僕は全身に鳥肌が立つのを覚えた。


 魔族の中で最強ランクである高位魔族――。

 そんな存在が、いきなり現れるなんて。


 恐怖と緊張が走り抜けるものの、次の瞬間、ある疑問が浮かんで、それらの恐怖や緊張を一瞬忘れた。


 リンゼアって……聞き覚えがある名前だぞ。


 ええと、あれは確か――。

 すごく重要なイベントに出てくる敵のはずなのに思い出せない。


 突然現れた魔族の前に、心が乱れているせいだ。


 くそ、落ち着け、僕――。


 こいつが出てくるイベントを思い出すことができれば、なんらかの対策を取れるかもしれない。


「人間どもの強さを調査する任務を与えられて、わざわざこんな場所まで来てやったわけだ。そこの女。お前がSランクとやらだな?」

「……なぜ私がSランクだと分かった?」

「胸につけてるやつだ。冒険者のランクを表している、と斥候班の調査資料で見た」


 指摘するリンゼア。


「私たちの世界のことを調べている、ということか」


 キリカさんがリンゼアをにらむ。


「目的はなんだ……?」

「侵略に決まっているだろう」


 リンゼアは平然と言った。


「まあ、わざわざ調査などせずとも、俺のような高位魔族がある程度の数でまとまって侵攻すれば、こんな世界は簡単に攻め落とせると思うが……魔王様はなにぶん慎重なお方でな」

「魔王――」


「我らが主、【暴食】のゴルボレオ様だ」


 七大魔王の一人、か。


 以前、僕が出会った【色欲の魔王】エルメリアと同格の、ゲーム本編におけるラスボスポジションの一人だ。




****

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