44 槍使いはアーロンの強さに戦慄する2(ベルナルド視点)

「き、貴様ぁっ!」


 ベルナルドは慌ててその場から飛びのいた。


 距離を取って、もう一度アーロンと正面から対峙する。


(危なかった……)


 全身に冷や汗をかいていた。


「今のは魔法か? 俺としたことが魔術師ごときの接近を見落とすとはな」

「魔法じゃない」


 アーロンが言った。


 その顔からは優男の雰囲気はすでになくなっている。


 最初に見た印象では、Aランクの美少女冒険者二人に囲まれた、Fランクのヘタレ冒険者――程度のものだったが、こうして戦闘状況で向かい合うと全く違う。


 魔術師でありながら、まるで歴戦の剣士のような雰囲気をも漂わせていた。


「今のは――ただの身体能力さ」

「ハア? 魔術師のお前が、戦士である俺の身体能力を上回ったっていうのか。舐めるな!」


 ベルナルドはカッと頭に血が上るのを感じた。


 相手はただでさえ最低ランク――Fランク冒険者であり、しかも魔術師だ。


 にもかかわらず、一流の戦士である自分を――、


「同じ『戦士の領域』で……お前が俺を上回っているって言いたいのかよ! ふざけるなよ!」


 怒りのままにベルナルドは突進した。


 もう手加減などみじんもしない。


 相手がFランクだからといって容赦はしない。


「最速の、そして最強の槍撃で倒す!」




 しゅんっ……。




 が、渾身の力で突き出したベルナルドの槍は、アーロンを捉えることができない。


 一瞬の後、彼はベルナルドの背後にふたたび回り込んでいた。


「なっ……!? なっ――」

「これはプリセラから会得したスキルだ」


 アーロンが背後で淡々と告げた。


「【第六感】そして【敏捷】」

「馬鹿な、それは戦士系のスキル――」

「僕はもう、戦士としても高ランク冒険者と戦えるだけの力を身に付けたんだ」


 ちゃきっ。


 首筋に冷ややかな感触が押し当てられた。


 アーロンが護身用のナイフをベルナルドの首に押し当てたのだ。


「終わりにしよう。いいね?」

「ぐっ……」


 屈辱の勧告に、ベルナルドは身を震わせながら何も言い返せなかった。





****

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