38 アウラ、生まれて初めての感情に戸惑う(アウラ視点)

 明らかに、このベッドでアーロンとプリセラは交わっていたのだ。


 シーツがこれほど乱れるくらいに――。


 そう考えるだけで、アウラは頭の中がグツグツと沸騰するような怒りを感じた。


(どうして、私……怒ってるの……!?)


 自分でも正体不明の感情だった。


 そもそも、彼女がアーロンに近づいたのは打算である。


 弟の呪いを解くために、最短距離でSランク冒険者を目指すアウラにとって、『性行為をすることでステータスを上昇させる』という第一等級スキルを持つアーロンは、まさに救いの手だった。


 彼に体を許せば……その回数を重ねれば、確実に強くなれるのだ。


 確実に、弟の解呪に近づけるのだ。


 そのためなら、体を張ることなど厭わなかった。


 アーロンとのセックスは、愛情を確かめる行為でも、欲望を解消する行為でもなく、単に『強くなるための儀式』なのだと――。


 そう割り切っているつもりだった。


(なのに、どうして――)


 分からない。


 あり得ない。


 どうして、自分は――。




 嫉妬、しているのか。




「どうしたの、アウラ?」

「――なんでもないっ!」


 言うなり、アウラは飛び出した。


 彼らと顔を合わせていると、たまらない気分になる。


 頭の中が爆発しそうな。


 意味もなく叫び出したいような。


 胸が苦しくて、締め付けられるような。


 だから――彼らと離れたかった。


 アウラは寮を飛び出し、学園の中庭まで走ってきた。


「はあ、はあ、はあ……」


 乱れた息を整える。


 飛び出してきてしまった。


 きっと、アーロンもプリセラも驚いただろう。


「何やってるんだろ、私……」


 アウラはため息をついた。


「アウラ!」


 と、アーロンとプリセラが追いかけてくる。


「あ……」


 放っておいてほしかったのに、と思ったが、彼らはアウラの前まで来てしまった。


 心配してくれたのだろう。


 そんな彼らの優しさが、今は疎ましかった。


 勝手だとは思うが、放ってほしかった。


「そ、その……僕、何か気に障ることをしたかな?」


 アーロンが申し訳なさそうな顔をしていた。


 プリセラの方は少し険しさを感じさせる表情でこちらを見ている。


「……別に、あなたは何もしていないわ。その……えっと、お邪魔だったかと思って」

「邪魔だなんて――」

「プリセラ先輩と一緒だったんでしょ? 二人っきりで過ごしたかったんじゃないの?」


 言いながら、アーロンをキッとにらんでしまう。


 違う。


 こんなふうに彼を糾弾したいわけじゃない。


 そもそも恋人でもないのに、自分に彼を糾弾する資格なんてない。


 そう、資格などないのだ。


 分かっているのに、気持ちが止まらない。


 胸の奥から湧き上がる熱い奔流のような衝動を止められない――。


「プリセラ先輩を――抱いたんでしょ!? シーツがあんなになるくらいに激しく! 夢中だったんでしょ? ねえ、プリセラ先輩の体は、そんなによかった? 私よりも?」

「アウラ――!?」


 アーロンは目を丸くしている。


 それはそうだろう、と頭の片隅で、自分の冷静な部分が言った。


 アウラが言っていることは支離滅裂だ。


 もともと打算的な関係で一緒にいるのに、いきなり恋人のように他の女との行為を非難し始めたのだから――。


 と、そのときだった。


「プリセラを……抱いた……だと……!?」


 背後で呆然とした声が聞こえた。




****

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