36 重なる唇、心


 そうやって、どれくらいの間、彼女は泣いていただろうか。


「ねえ、あーくん……」


 ふいにプリセラが顔を上げた。


「ん?」

「……して」

「えっ」

「キスして」


 今度は、はっきりと口にした。


 僕は誘われるがままに、プリセラに唇を重ねる。


 そういえば――。


 自分から彼女にキスをしたのは初めてかもしれない。


 今までに数えきれないくらい唇を重ねているのに、まるで初めてのキスのようにドキドキした。


「ん……」


 プリセラが強く唇を押し付けてくる。


 僕も同じくらい強く唇を押し付ける。


 舌を入れず、ただぴったりと互いの唇を重ね合わせるだけの行為――。


 それが、どうしてこんなに胸をときめかせるんだろう?


 プリセラは、大切な幼なじみだ。


 ただ、それは『前世に目覚める前の僕』にとっての想いだった。


 今の僕――前世を思い出した後の自我を持つ僕にとって、プリセラは『幼なじみという記憶』を持っているけど、体感的にはしばらく前に出会ったばかりの女の子でしかない。


 けれど、今――。


 幼なじみだった記憶は、僕自身の感情に溶け合っていると感じる。


 彼女のことを大切だと感じる。


 そして、それは長い年月を過ごしてきた幼なじみという理由だけじゃない。


 もっと根本的に、プリセラ・ウィンゾードという少女を、僕は大事に想っているんだ。


 想い始めているんだ。


 だから――、


「守るよ」


 決意を込めて、言った。


「これからも、僕が守るよ」

「あーくん……?」


 プリセラが驚いたように目を丸くしている。


「ふふ、君がそんなこと言ってくれるなんて」

「プリセラを泣かせたあいつが許せない」

「……ありがと」


 プリセラは涙をぬぐいながら、


「でも、ちゃんと守ってくれたよ。おかげで唇を奪われずに済んだから――」


 言って、また僕にキスをしてくれた。


「あたしの唇に触れていいのは、あーくんだけだから」

「プリセラ……」


 今度は僕の方からキスをする。


「ううん、唇だけじゃない。もっと他の場所も、あーくんだけに許したんだからね」


 言って、彼女は服を脱ぎ始めた。


「プリセラ……!」

「抱いて」




****

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