35 モブは主人公をブッ飛ばす


「プリセラから……離れろぉっ!」


 僕は無我夢中でアイゼリックに跳びかかる。


「ちいっ、Fランごときが!」


 アイゼリックはプリセラを突き飛ばし、僕を迎撃しようと構えた。


「【ウィンド】!」


 下級の風魔法だ。


 さすがに爆裂系などの魔法では大怪我を負わせかねないから、風系統の魔法で僕を吹っ飛ばそうというのだろう。


 けれど――、


「【身体強化】」


 僕は戦士系のスキルで身体能力を増幅すると、一気に加速して『風』の範囲外まで回り込んだ。


「な、なんだと!? 魔術師のくせに、この速度は――」


 驚くアイゼリック。


 彼が僕のスピードに慣れる前に、一気に決める――!


「はあっ!」


 そのまま体当たりしてアイゼリックをよろめかせ、


「このぉぉぉぉぉぉっ……!」


 さらにその頬に思いっきり拳を叩きつけ、吹っ飛ばした。


「ぐあっ……!」


 無様に転がる主人公アイゼリック


 モブの逆襲、ってところだ。


 僕はその間にプリセラを助け起こした。


「大丈夫、プリセラ?」

「ありがとう……」


 彼女の言葉はギョッとするほど弱々しかった。


 いつもの勝ち気で元気なプリセラとは別人のように。


 さっきのアイゼリックの行動がよほどショックだったんだろう。


 これでもし本当に唇を奪われていたら、そのショックは今の比じゃなかったかもしれない。


 助けられてよかった、と思うべきか。


 いや、それでもプリセラにこんな顔をさせたアイゼリックのことは許せない――!


「てめぇ、殴ったな……!」


 アイゼリックが憎々しげに僕をにらんだ。


「君は、プリセラを傷つけようとした!」

「はあ? そいつは俺の女だ! 俺のモノになる女なんだよ!」


 こいつ……っ!


 もう一発殴ってやりたい。


「おっと、そこまで」


 突然、背後に気配が生まれた。


「えっ!?」


 いつの間にか僕の後ろに一人の男子生徒が回り込んでいる。


 確か、カリスって紹介された少年だ。


「うちのアイゼリックが迷惑をかけたね。彼は昔から思い込むと一直線なんだ……本当に済まなかった」


 深々と頭を下げるカリス。


「プリセラに無理やりあんなことを――未遂だったからって、それで済まされる問題じゃない」


 僕は怒りが収まらない。


 自分でも驚いていた。


 元来、僕は他人に対して厳しい態度を取るのが苦手だ。


 前世でもその性格で散々損をしてきたと思う。


 けれど、それでも他人に強く出る、ということがどうしてもできなかった。


 その僕が――。


 プリセラのことで、本気で怒っている。


 頭の中が茹って、血液が沸騰しそうで――。


 これが本当の『怒り』なんだろうか。


 生まれて初めて、っていうくらいに、僕は激怒していた。


「――もういいよ。行こう、あーくん」


 そんな僕の頭を冷やすようにプリセラが言った。


「アイゼ、さっき言った通りよ。あたしは君たちの元には戻らない。あーくんと一緒に頑張るの」

「プリセラ……」


 アイゼリックは呆然とした顔だ。


「じゃあね。カリスも、止めに入ってくれてありがと」

「またね」


 手を振るカリス。


 そして僕は。


 プリセラに引っ張られるようにして、その場を後にした。


 僕を燃えるような目で見ているアイゼリックに対し、僕も同じような目でにらみ返していた――。




 ――僕らは寮の自室に移動した。


 周囲の視線がない場所で、プリセラを落ち着けたかったのだ。


「あーくんの前で他の男にキスされるかと思った……」


 ぽつりとつぶやき、プリセラが嗚咽する。


「プリセラ――」


 こんなふうに彼女が泣いているのは初めてだった。


「プリセラ……っ!」


 僕は彼女を抱きしめていた。


「……守っ…くれ……あり……と……」


 嗚咽しながら、途切れ途切れに礼を言うプリセラ。


 僕はただ抱きしめ、背中をさすり、寄り添い続ける――。





****

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