33 主人公アイゼリック・ホルスは嫉妬する(アイゼリック視点)
「はああああっ……!」
アイゼリックが放った魔法弾が、Aランクモンスター【ギガウルフ】を跡形もなく消し飛ばした。
「ひゅうっ。さすがだな、アイゼリック」
同じパーティの仲間、弓術士の少年カリスが口笛を吹いた。
「最近ますます強くなったよな、お前」
同じくパーティメンバーで戦士の少年エンリケが笑う。
「次に上位に入れば、お前もいよいよAランクか」
「今がBランクの7位だからね。早くAに上がりたいよ」
「そろそろお前に追い抜かれそうだな」
カリスが苦笑した。
「俺はAの10位台で停滞中だ」
「Aの10位台を『停滞』なんて言えるのは君くらいだろ」
アイゼリックは苦笑を返した。
それから笑みを消し、
「……プリセラは次の昇格クエストでSランク昇格がかかっていたのに……どうして、俺たちのパーティを抜けたんだ」
と、つぶやく。
「プリセラはAの3位だからな。次の昇格クエストで昇格ポイントを最低限取れれば、Sランクまで上がることができた……冒険者学園在学中にSランクに昇格したら、10年ぶりくらいの快挙だろ?」
カリスが肩をすくめた。
「わざわざ弱小パーティに移籍するなんて信じられないよ。それじゃ昇格クエストでポイントを稼げないだろうに」
「なんだ、プリセラが抜けたのがそんなにショックだったのか、アイゼ」
カリスが笑った。
「お前、彼女のことが好きだったの?」
「……う、うるさいな」
アイゼリックは視線を逸らした。
図星、だった。
「フラれたな」
「べ、別にフラれたわけじゃない」
思わずムキになってしまった。
「プリセラはその……ちょっと自分の力を試してみたくなった、って言ってたから、それで一時的にパーティを抜けただけさ。きっとすぐ戻ってくる」
そう、アイゼリックの元へ。
絶対に戻ってくるはずだ――。
「プリセラのいるパーティは本当に弱小みたいだからな。確かに『自分の力を試したくなった』って理由なら、納得がいく移籍かもしれないな。確か男が一人いるだけだろ」
「えっ、じゃあプリセラはその男と二人っきりなのか!?」
アイゼリックは思わず声を上げた。
「ああ。なんて名前だったかな……二年生で唯一のFランクらしい」
「Fランだと!? なんでそんな奴と――」
信じられなかった。
強く美しく選ばれた天才であるプリセラが、そんな最底辺の男の元にいるなど……。
「案外、そいつに惚れたんじゃないの、プリセラ」
カリスが笑う。
他人の恋路だと思ってネタにしているらしい。
アイゼリックはムッとした顔で彼をにらみ、
「――連れ戻してやる」
目を血走らせて宣言した。
「おいおい、嫉妬はみっともないぜ」
「うるさい! プリセラの目を覚まさせてやるんだ。君も来い、カリス!」
「はいはい」
カリスは肩をすくめた。
「なんだ、気が進まないのか?」
「お前に言われちゃ、ついていくしかないさ。それに」
アイゼリックの問いにカリスはニヤリとした。
「あのプリセラが選んだ男に興味がある」
****
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