31 僕は地道に、確実に強くなっている
まさか勝ってしまうとは――。
僕は自分でも驚いていた。
いつの間にか、ここまで身体能力が上がってたんだ。
とっさの時に、それが出た。
「逆に言えば……普段はちゃんと自分のパワーとスピードを使いこなせていないってことじゃないか……?」
無我夢中だったからこそ、100パーセントに近い能力を発揮できたんじゃないだろうか。
「負けた……」
一方のマルグリット先生は呆然としているみたいだ。
「え、えっと、今のはマグレなので――」
「負けたわ! すごいじゃない!」
と、マルグリット先生は目をキラキラさせ、僕の両肩をがしっとつかんだ。
「君の動きは大体読めたけど、最後の突進は予想を超えていた……対応しきれなかったわ」
マルグリット先生が苦笑する。
「君の力を見誤っていたみたい。脱帽よ」
「でも、本当にマグレですよ?」
僕は照れくさくて言った。
「マルグリット先生のコンビネーションに思いっきり体勢を崩されましたし、夢中でなんとか避けられただけだし、反撃も夢中で――」
「いいのよ、それで」
マルグリット先生が微笑んだ。
優しい笑顔だ。
『教育者』って感じがする、生徒の僕を優しく見守ってくれる笑み――。
「強くなっているのね、アーロンくん。先生、嬉しいわ」
「僕、もっと強くなりたいです」
僕は力強く言った。
「笑われるかもしれないけど、いつかSランクになって一番難度の高いダンジョンをクリアしてみたいんです」
「笑わないわよ」
マルグリット先生は真顔に戻る。
「笑うわけがないでしょう。あなたの夢は――生徒の夢は、教官である私の夢でもあるわ。全力で応援するし、協力もするわよ」
「先生――!」
僕は感動した。
あ、でも、そんな立派な教育者に、僕は【魅了】とか【発情】を使っちゃったんだよな。
スキルのオート発動とはいえ、今さらながらに罪悪感が出てきた。
「さあ、続きをしましょうか? 今度はもう少し動きを早くするわよ」
マルグリット先生が言った。
「君はそれに合わせて自由に動いて。また――私の予想を上回る攻撃を見せることを、期待しているわよ?」
「ふうっ……」
それから三十分、僕はマルグリット先生を相手にみっちり汗を流した。
やっぱり先生は強い。
最初こそマルグリット先生の意表を突き、一本を取った僕だけど、その後の模擬戦ではことごとく負けた。
どれだけ動いても、相手はその先をいく。
純粋なパワー勝負なら僕に分があるけど、その『パワー勝負』という土俵に持ち込ませてくれない。
スピードも僕の方が上のはずだけど、マルグリット先生にほとんど先読みされてしまい、どうにもならなかった。
結局のところ、どれだけパワーやスピードが優れていても、動きを読まれてしまっては封じられてしまう――ということなのだ。
それが実感として理解できた。
「うーん……だめだめだなぁ」
「あら、何言ってるのよ」
さすがに少し凹んでいると、マルグリット先生が微笑んだ。
「むしろ逆でしょう? 初めての剣術の訓練で、これだけの動きを見せたんだから。はっきり言って天才的だと思うわよ?」
「えっ」
「もっと胸を張りなさい。あなたは全くの剣術初心者でありながら、この私が本気で対応しないと抑えられないほどの戦いぶりを見せたんだから」
「マルグリット先生……」
そう言われると、なんだか自信が湧いてくる。
「ありがとうございました」
「よくがんばったわね」
言って、マルグリット先生が僕に顔を寄せる。
キスされる――?
ギクリとするが、マルグリット先生は僕の唇……ではなく耳元に口を寄せた。
「これから一緒に教官室に来なさい。今日のご褒美を上げる」
「ご、ごほうび……?」
思わずマルグリット先生を見つめると、彼女は舌でチロリと自分の唇を舐めた。
背筋がぞわっとするほどの色香を感じ、僕は硬直する。
「そう。ご褒美よ……ふふ」
その眼光が妖しく輝いている――。
****
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