24 僕は、かつての僕と決別する

 僕は次の一撃を放つべく、精神集中に入る。


 ワンパターンだけど、敵の弱点である【デッドリィボルト】連発で倒すつもりだった。

 と、


 ぐおおおおおおっ……!


【ウォータードラゴン】が雄たけびを上げる。


 ――嫌な予感がした。


「っ……!」


 僕はとっさに跳び下がった。


 ざしゅうううっ!


 一瞬前まで僕がいた地点を、青い何かが横切り、切り裂く。


「これは――」


 水の刃。


 そう、水圧カッターのようなものが僕がさっきまで立っていた地点を深々と切り裂いていた。


 ダンジョンの床には深い裂け目が走っている。


「こんな攻撃手段も持ってるのか……」


 まともに食らったら一発でアウトだ。


 ゾッとなった。


 今までだったら、怖くて震えあがっていただろうな。


 体がすくんで何もできなかったと思う。


 僕は前世でも度胸がある方じゃなかった。


 いや、むしろ臆病な人間だった。


 ちょっと困難なことがあれば逃げがちだったし、暴力であったり権力であったり、恐怖を覚えればすぐにへりくだっていた。


 歯向かうことは一切せず、ただ従っていた。


 本質的に『戦う』ということができない人間だった。


 それが自分にとって納得のいかないことであっても。


 あるいは譲れないものであっても。


 怖ければ、おびえ、逃げる。


 そして服従する。


 それが僕という人間だった。


「逃げたい……」


 震えながらつぶやく。


 恐ろしいという感情が全身から熱を奪う。


 闘志という熱を。


 気持ちが萎えていくのが分かる。


 そう、こうやって僕は相手に屈服するんだ。


 臆病な僕は――。


 るおおおおおおっ!


【ウォータードラゴン】が威嚇するように吠えた。


 さあ、逃げよう。


 僕の内なる声がささやく。


 僕は――。


「……まだだ」


 逃げなかった。


「だって、ここで逃げたら――僕は、いつまでたっても『昔の僕』のままだ」


 僕は、そんな昔の自分が嫌いだから。


「立ち向かう、勇気が欲しい……!」


 脳裏に浮かんだのはプリセラとアウラの顔だった。


 ちょっとだけ……いい格好をしてみたくなったのかもしれない。


 このダンジョンをクリアした後、僕はAランクモンスターに立ち向かったんだ、って彼女たちに報告したくなったのかもしれない。


 少しずつ僕は強くなっている。


 その強さを信じてみよう。


 その強さは昔の僕を――弱かった僕を変えてくれる力だ。


 僕が嫌いだった『昔の僕』を打ち壊してくれる力だ。


 だから、


「僕は――戦う! 来い!」




 戦いは、まさに死闘だった。


 以前の僕なら絶対に勝てなかったと思う。


 それでも――。


「はあ、はあ、はあ……か、勝った……」


 最後の方は無我夢中でひたすらスキルを連発していた。


 守勢に回れば水の刃に切り刻まれる。


 だから、そうならないようにスキルで相手を牽制しまくり、一瞬できた隙をめがけて【デッドリィボルト】を放った。


 それが決定打になり、なんとか【ウォータードラゴン】を倒すことができた。


「Aランクモンスターなんて絶対無理だと思ったのに……案外なんとかなるもんだなぁ」


 僕はその場にへたりこみ、苦笑いをした。


 爽やかな気分だった。


 今までの自分とようやく決別できたような――。


 とても、爽やかな気分だった。




****

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