21 アウラが初めてを捧げてくる


 数時間後、僕らは連れ込み宿から出てきた。


「うう、脚の付け根が痛い……」


 アウラが歩きながら顔をしかめる。


「まだ……何か挟まってるみたいな感じがする……うう」

「ご、ごめん、アウラ」

「あ、ううん。あなたのせいじゃないし。すごく優しくしてもらったと思う」


 アウラは微笑んだ。


「おかげで少し強くなれたわ。やっぱりあなたの力は本物だったのね」

「うん。こういう行為をした後、僕と相手の女性のステータスがそれぞれアップするんだ」


 僕らは連れ込み宿を出た後、寮に続く道を歩いていた。


 自然と手をつなぎ、恋人同士みたいに肩を寄せ合っている。


「ねえ……また、私とこういうことしてくれる?」


 アウラがたずねた。


「ん。君が望むなら」

「もちろんよ。もっと強くなりたいもの」


 と、アウラ。


「ただ……私にはメリットがあるけど、あなたにはないわよね? 私に何かできることはある?」

「えっ」

「私だけがいい思いをしていることになるじゃない。あなたは私のために……私を、その、抱いてくれるわけだし」


 ……男にとって、普通はそれ自体が『いい思いをしている』ことになるんだけど。


「僕だって強くなれるし、それに君を抱けるだけで『いい思い』をしてるよ、僕」


 と、素直な感想を告げる。


「えっ? えっ? わ、私と……その、そういうことをするだけで……いい思いなの?」

「う、うん」

「そっか……そうなんだ」

「男なら大概そうだと思うよ」

「でも、私……別に魅力ないでしょ。胸とか、そんな大きくないし」

「そんなことないよ! すごくスタイルいいと思う」


 ……って、何言ってるんだ、僕は。


「あ……ど、どうも」


 アウラは照れたように顔を赤くした。


「なんか、ごめんね。今の話題、ちょっと下品だった?」

「ううん」




「――何してるのよ、君たち」




 背後から怒りの調子を含んだ声が聞こえた。


 それもかなりキレている雰囲気の。


「え、えっと」


 この声は――。


 すごく聞き覚えのある声なので、振り返るまでもなく声の主が誰なのかは分かっていた。


 うう、ややこしいことになる気がするぞ……。


 焦りつつも、僕は背後に立っていた人物と向き直る。


「あたしのあーくんに随分とベタベタしてるじゃない」


 プリセラはやっぱりかなり怒っているようだ。


「あら? プリセラ先輩のモノなんですか、アーロンくんって」


 動じないアウラも大したものだと思った。


 間に挟まれる格好になった僕は、ひたすら気まずい。


「――そうよ。あたしと彼は『深い仲』なんだから」

「あら? それを言うなら、私も彼と『深い仲』になりましたよ?」


 にらむプリセラに、アウラがふふんと鼻を鳴らした。


 けっこう気が強いなぁ、アウラも……。


「……なんですって」


 ぴくぴく、とプリセラのこめかみに青筋が浮かんだ。


 うわ、本気で怒ってる……?


「彼は強さを求めているし、私も同じです。互いの利益が一致したので肌を重ねた――それだけのことです」


 アウラが淡々と告げた。


「もちろん無理強いなんて一切していません。私と彼が合意の下で性行為をしたんです」

「むむむむ……」


 プリセラの顔が紅潮する。


「……ふ、ふん。一度寝たくらいで彼を自分のモノにしたなんて思わないでよね。あくまでも正妻ポジションはあたしだから!」

「どうぞ? 私は彼の能力で強くなることができれば、それでいいですから。あ、定期的にセックスはしますからね、彼と」

「あ、あたしの方がいっぱいするから!」

「私のパワーアップに支障がない範囲でなら。あ、でも選ぶのはアーロンくんですから」

「確かにそうね。きっと女としてより魅力がある方を選ぶんじゃないかしら。心も、体もね」


 言いながら、プリセラは見せつけるように胸を逸らした。


 ぷるん、と豊かな左右の膨らみが揺れる。


「む……」


 プリセラに比べると、アウラのそこはささやかなサイズだ。


「む、胸の大きさがすべてじゃないですし。っていうか、そういうマウント、頭悪そうに見えますよ、先輩?」

「あたしが頭が悪いなら、君は打算だけであーくんと寝た貞操観念ゼロ女じゃない?」

「ケンカ売ってます?」

「あたしは事実しか言ってないけど?」


 ばちばち、と火花を散らす二人の美少女。


 間に挟まっている僕は、生きた心地がしないんだけど――。




****

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