16 プリセラは幼なじみへの恋心が止まらない1(プリセラ視点)
両脚の付け根に――その奥に、まだアーロンと交わった後の熱が色濃く残っている。
体が甘く火照る感覚が快い。
うっとりとした心地で、プリセラは鍛錬場へ向かっていた。
本当はもっとアーロンと一緒にいて、恋人同士に似た甘酸っぱい空気に浸っていたかった。
彼とは幼なじみという関係を脱したわけではないし、体の関係があるといっても、それはプリセラの方から『他の女が近づかないように、自分が体を張る』という名目に過ぎない。
同時に、それはアーロンにとっては『自身の強化』という利益にもなる。
プリセラの『幼なじみを他の女から守りたい』という想いと、アーロンの『強くなりたい』という思い――二人の思惑が合致した上での打算的な関係だ。
そう、少なくともそういう名目で、プリセラはアーロンとの肉体関係を続けている。
が、それが単なる口実に過ぎないことを、プリセラは理解していた。
(最初は――本当にあーくんを他の女から守りたかっただけだったんだけどな)
そう、最初の動機は――ただの心配だった。
彼女にとってアーロンは単なる幼なじみだ。
大切な幼なじみだ。
だから、守りたかったのだ。
(だって……あたしにとって、あーくんは家族よりも『家族』だから――)
プリセラ・ウィンゾードは大貴族ウィンゾード伯爵家の次女として生まれた。
父は家庭を顧みず仕事や他所の女のところを飛び回り、プリセラに父親らしい愛情を向けることは皆無だった。
そもそも父と会うこと自体が一年で数えるほどしかない。
母もまた、父への当てつけのように若い愛人を複数囲っている。
こちらもプリセラには目もくれず、母親としての務めよりも、自身の女としての人生を謳歌していた。
兄や姉も他国に留学し、家にはほとんど戻ってこない。
プリセラは、孤独だった。
ただ、彼女には剣の天分があった。
両親に剣を習いたいと申し出たが、父はそもそもプリセラを放置しているし、母は母で貴族の女子に剣など不要とばかりに反対された。
だが、プリセラは諦めなかった。
両親が自分の生きたいように生きているなら、あたしも自分の生きたいように生きる――。
半ば意地、半ば克己のそんな感情のまま、彼女はこっそりと町に繰り出した。
そこで身分を隠して剣術道場に通うようになった。
その道場で出会ったのが、アーロン・ゼラという少年だった。
「あたし、プリセラ! 君は?」
「僕は……アーロン……」
「アーロン――あーくん、だね。ねえ、友だちになろうよ!」
「えっ……」
「だって、同じ年代の子って他にいないし」
「う、うん……」
アーロンはおとなしい子どもで、活発なプリセラとは正反対だった。
けれど、それゆえになのか、プリセラとアーロンはすぐに打ち解けた。
まるで実の姉と弟のように二人は親しくなった。
ただ、アーロンは剣の才能に乏しく、代わりに魔法の才能を備えていたため、しばらくすると道場を止めて、魔法の修行をするようになったが。
ただ、それでもプリセラが町に来たときは、一緒に会って他愛のないことを話したりした。
そんな日々から数年、プリセラは冒険者を志すことにした。
そのころには、母が縁談の話を頻繁に持ってくるようになったからだ。
自分の意志など完全に無視され、ただ親の決めた相手と――親の都合のよい相手に自分の人生を捧げるなど真っ平だった。
自由が欲しかった。
自分の意志で自分の道を決め、進む自由が。
そのためなら、貴族令嬢の座を捨ててもよかった。
やがて、プリセラは勘当同然に家を追い出され、晴れて冒険者学園に入ったのだった――。
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〇『死亡ルート確定の悪役貴族 努力しない超天才魔術師に転生した俺、超絶努力で主人公すら瞬殺できる凶悪レベルになったので生き残れそう』
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