第5話
「翔太、やっと出られたな…」
優斗が肩を並べて、息をつきながら言った。
「本当に…これで終わったんだよな?…」
翔太も少し呆然としながら、目を閉じた。その瞬間、体中に響くような大きさでアナウンスが流れた。
「さ〜あて!四名の参加者は無事に試練を突破しました。最終的な結果と全国順位は、明日のニュース7で発表されます!ぜひご確認ください!!」
そのアナウンスに、一瞬全員が驚いたように立ち止まり、互いに視線を交わし合った。
「どういうことよ、これ…」
玲奈が困惑の表情を浮かべて言った。その時、
「やあやあ!」
彼らの目の前に現れたのは、冷静な表情をした30代くらいの男だった。彼は、こちらに向かって手を振り、軽く頭を下げた。
「このゲーム、君たちが経験した試練は、単なるエンターテイメントではないんですよ。実は、これは日本政府が主催した社会実験の一環なんです」
その言葉に、翔太は思わず目を見開いた。
「日本政府…?」
「はい。少子化の影響で社会が崩壊しつつあるこの国を救うために、私たちはさまざまな方法を試みてきました。この『デスゲーム』は、そのひとつの方法として、若者たちが生き残るためにどう行動し、どう成長するのかを観察するために行われたのです。まあ、希望がなさそうな人は本当に始末しちゃうんですけどね。へへ」
「申し遅れました。私、家庭庁少子化対策室室長兼ゲームマスターの山崎と申します。
「まさか…俺たちがゲームに参加させられていたのには、そんな理由があったのか?」
優斗が歯を食いしばりながら言う。
「正確に言えば、君たちだけではありません。全国で数百組の若者が同時刻に同様の試練に挑み、国民にその様子が配信されていました。君たちの行動が、今後の日本の未来を左右する重要なデータとして活用されるのです」
玲奈は信じられないという顔で呟いた。
「まさか、私たち見せものにされてたってこと?」
ゲームは、ただの極限の試練ではなく、若者たちの決断力や協力、絆がどれだけ重要であるかを国民全体に伝えるための「見せしめ」でもあった。最も過酷な状況下でいかに生き残るか、どんな価値観を持って行動するのか、それを示すための舞台として、毎回リアルタイムで配信されていたのだ。
翔太は深く息を吸い込んだ。
「それなら…俺たちの苦しみや、三人との絆が、ただの実験データになったって訳だ?」
「そうです。が、その結果を基に、これからの社会が構想されるのです。若者たちがどれだけ自分たちの未来に責任を持てるか、そして社会をどう変えていけるか、その視点が重要なのです」
政府関係者の山崎は自信満々にそう言った。その言葉を聞いて、翔太は静かに考え込んだ。やがて、決意を込めた目でその関係者を見つめる。
「でも、俺たちだけじゃなくて…他の奴ら(参加者)だって、みんな同じように大変な思いをしてきたんだよな?」
「もちろんです。すべての参加者が試練を通じて、今後の日本に必要な価値観を学んだことは間違いありません。しかし、君たちのように試練を突破した若者たちが、新しい未来を作るために動くことが大切なのです」
山崎は静かに答えた。政府関係者の言葉を聞き終え、四人はしばらくその場に立ち尽くしていた。翔太は顔をしかめ、やがて手をギュッと握りしめた。そして一歩、関係者の前に踏み出した。
「それで、結局俺たちの命は、ただの実験材料だったってわけか?」
政府関係者の山崎は、冷静な表情を崩さずに答えた。
「君たちが試練を通じて生き残り、社会のために成長する姿こそが——」
その言葉が終わる前に、翔太の拳が彼の顔面に向かって飛んだ。山崎は一瞬たじろぎ、うめき声を上げて後ずさった。痛みと驚きで押さえ込まれたその表情に、翔太は憤りをぶつけるように叫んだ。
「俺たちは、社会のために命をかけたんじゃない!自分たちの命を、自分たちの意思で生き残るために戦ったんだ!」
後ろにいる優斗も一歩前に進み、翔太の肩に手を置いて冷静にうなずいた。
「俺たちの人生を勝手にデータにされるなんて、誰も望んでいない!!」
玲奈も怒りを込めて言葉を絞り出した。
「私たちはモルモットじゃない。誰かが決めたルールなんかで生き方を縛られたくない」
「いつかぶっ殺してやる」
四人は背を向けてその場を去った。彼らの足音だけが、そこに響き渡った。後ろから聞こえる山崎のうめき声も、もう彼らの耳には届かなかった。自分たちの未来は、誰かに決められるものではなく、自分たちの手で切り開くものだと、四人は強く心に誓っていた。それぞれの心に新たな決意と怒りを抱き、四人は歩き続けた。その足取りには、今まで偉大ことのない感情が重くのしかかっていた。
デスゲームの狭間 Neon @KAMIZAKI_K
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