恋愛相談
「今なんて……?」
「だから、同じクラスの佐倉桃さんを好きになったんだ! 恥ずかしいから何回も言わせないでくれ」
「そう、なのか……」
だから島崎は昨日ずっと桃の顔をチラチラ見ていたのか。
てっきり申し訳なくて見ているのかと思っていた。
「それでどうして桃を好きになったの?」
「そんなことを聞いてくるのか!? まぁいいけどさ——もちろん顔がいいのもあるけどやっぱり一番は彼女の言葉が心に響いたことかな。あんなはっきりと言われたのは初めてだ」
なるほど。理由にとやかく言うつもりはないけど昨日のあれだけで桃のことを好きになったのか。
そんな簡単に人のことを好きになれるのが少しだけ羨ましい。
「それで、俺にどうしてほしいの?」
「え?」
「いや、それを俺に話したってことはなにかしてほしいことがあるからだよね?」
「あぁ……そう、だね」
なんだかまた嫌な予感がする。
なにか手伝わされる、そんな気がする。
「その——君に俺と桃さんの関係を取り持ってほしいんだ!」
二度目の嫌な予感は的中した。
俺が桃と島崎の仲を取り持つ……俺でさえ桃と仲直りしたのは最近なのにそんなことできるのか? というかそんなこと勝手にしてもいいのか?
いや、違うな。俺がやるかやらないかの問題か。
友達が増えるのはいいことだけど彼氏となると話が変わってくる。
桃に彼氏ができる……もしそうなるとまた俺と一緒にいる時間が減っていくだろう。
自分はただの友達なのに桃に彼氏ができるのは嫌だと思ってしまう。
どうしてだろう。こんな考え絶対に良くない。
だけど俺は——
「ごめん、君と桃の関係を取り持つことができない」
「そう、だよね。でも君が謝らないでくれ。お願いしたのは俺の方なんだから——じゃあ俺一人で頑張るよ! 京介くんも頑張ってね!」
島崎はそう言うと席から立ち上がりお金だけ置いて店を出ていった。
京介くんも頑張ってね……? それはどういう意味だ? 頑張るのは君だけだろ?
もしかして『君も頑張って彼女を作ってね!』という意味なのだろうか?
なぜか怒りが込み上げてくる。
俺を煽っているのか?
いや、彼はそんな人ではない。そんなこと分かっているけど——
(あの人少し苦手だ)
◇◇◇
次の日、学校に行くと早速、島崎と桃が話していた。
行動が早いな。
この調子だと二人はすぐに仲良くなれそうだ。
それに少し嫉妬してしまう。
俺と桃は前の時、やっとの思いで仲直りしたと言うのに島崎は初日から話せている。
あれがいわゆる陽キャというやつか。
なんの話をしているか気になるけど盗み聞きするのは良くない。
俺はそう思い、無言で二人の前を通って自分の席へ向かおうとすると桃が話しかけてくる。
「京介!」
「どう、したの?」
話しかけられるとは思ってなかったから少し間が空いてしまう。
「今日の放課後、芽衣ちゃんとパンケーキ食べに行くんだけど。その、京介も一緒にどうかなって……」
「うん、いいよ」
まさか男と話している時に遊びに誘われるなんて思ってもみなかった。
関係を取り持つことはできないけどせっかくなら島崎も誘ってあげたいが——
「それ、俺も行っていいかな?」
島崎がそう聞くけど桃は嫌そうな顔をしている。
彼には悪いがここは断った方がいいんじゃないのか?
断ってあげようとすると桃が「——いいよ」と受け入れた。
桃がいいと言うなら俺がとやかく言うつもりはないけど、本当に大丈夫だろうか?
少し怖いな。もしまた問題が起きたら俺がなんとかしないと。
「それじゃあ放課後」
「うん、放課後」
そう言って全員、自分の席へ戻った。
「おはよう、七瀬さん」
「おはよう、清村さん」
いつも通り自分の席に座って七瀬さんと挨拶を交わす。
そして朝のホームルームが始まる。
全ての授業が終わりあっという間に放課後になった。
周りを見渡すと既に桃と島崎は教室にいない。でも隣にはまだ七瀬さんが帰り支度をしている。
二人は先に行ったのだろうか?
するとスマホが鳴る——開くと桃からの連絡だった。
『校門で待ってるから早く来て』
早く来て? そんなにパンケーキを食べたいのだろうか?
とりあえず早く向かうか。
『分かったすぐ行く』
そう返信して隣の七瀬さんに話しかける。
「七瀬さん。桃、校門で待ってるだって。行こうか」
「うん、分かった」
二人で校門へ向かうと、桃が立っていた。
そしてその隣には島崎もいた。
島崎が桃になにか話しているようにも見えるけど——なにを話しているんだろう?
二人で近づくと話し声が聞こえてくる。
「パンケーキ楽しみだ!」
「うん、そうだね……」
桃が少し気まずそうにしている。それもそのはず。
昨日、謝られたとはいえ桃は島崎に強く言っている。
それに桃からしてみれば島崎は『変な人』認定だろう。
一度でも変な人と印象付けるとその印象が消えることはない。ずっと変な人で覚えられてしまう。
しかも残念なことにそれが変わることはそうそうない。
可哀想だけどこれが現実だ。
考えていると桃が俺たちの存在に気づいたのか話しかけてくる。
「京介! 芽衣ちゃん!」
「なに話してたの?」
「『パンケーキ楽しみ』って話してただけだよ。早く行こ!」
桃はそう言って七瀬さんと一緒に歩いていった。
早速、男女で分かれてしまった。
まぁ、仕方のないことか。
「俺たちも行こうか」
「そうだね」
俺たち男子組も桃の後をついていった。
前に桃と七瀬さんが並んで歩いている——そしてその後ろに俺と島崎が並んで歩いている。
やっぱり男女で遊びに行くとなったらこういう感じなんだな。
分かってはいたけど実際、目の当たりにすると悲しくなる。
隣の島崎がそわそわしているのが目に入る。
「どうしたの?」
「そのさ、俺と佐倉って……結構いい感じ、じゃね?」
「えっと、そうだね……」
うん、そういえば彼はこういう性格だった。
さっき可哀想とか少し心配していたけど彼にそんな心配は不要だったようだ。
「ほら、着いたよ!」
前にいる七瀬さんが店を指さす。
ここがお目当ての店か——昨日行った喫茶店はおしゃれな店だったけど今回はいかにも女子高生が好きそうな可愛い外装だ。
こういう所も来るのは初めてだ。
中に入ると案の定、女子高生がたくさんいた。
でも、これ座る場所あるのか?
そう思って席を探すと空いている席が一つだけあった。
良かった。
「何名様ですか?」
「四人です」
「四名様ですね。こちらへどうぞ」
席へ案内される。
席に着くとさっき歩いている時と同じように座る——対面には七瀬さんがいてその隣には桃が座っている。そして俺の隣に島崎。
桃がメニュー表を取って机に広げる。
「なに頼む? ってパンケーキか……」
「そうだね」
「清村さんは甘いもので大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ店員さん呼ぶね」
そして全員パンケーキを頼んだ。
すぐに全員分のパンケーキが届けられた。
「ごゆっくりどうぞ」
パンケーキにはたっぷりの生クリームに大きいイチゴが二つ乗ってあった。
甘いものが特別好きというわけではないけどこれは美味しそうだ。
「早く食べよ!」
「ちょっと待って!」
桃が食べようとしている七瀬さんの手を止める。
「食べる前にやることを一つ忘れてない?」
「なに……?」
「女子高生が食べ物を食べに来たときはまず写真を撮らないと!」
やっぱり桃は見た目通りちゃんとギャルなんだなと思わされる。
俺も七瀬さんと同じように全く気にせず食べようとしていた。
確かに周りを見渡すとみんな写真を撮っている。
もしかしてここでは俺たちが少数派なのか?
七瀬さんたちはスマホを出して写真を撮り始める。
俺はどうしよう……
とりあえず隣を見てみると島崎はもう既に食べ始めていた。
ならいいか。俺も先に食べよう。
一口頬張ると口いっぱいに甘みが広がる。
美味いけどこれは、甘すぎるな。
「もう二人とも食べ始めてるし——私たちも食べよう」
「うん」
食べ始めて数十秒が経つと、いきなり周りの女子高生たちが騒ぎ始める。
「ちょっと待って! 見てあの人!」
「え!? めっちゃイケメンじゃない?」
多分、島崎のことを言っているのだろう。
「どうする? 話しかけてみる?」
「いやでも、女の子といるよ?」
「ホントだ。あの黒髪の子、彼女さんかな?」
「あの子もすごい可愛くない!?」
「やば、めっちゃお似合い」
黒髪の子——七瀬さんのことを言っているのだろう。
確かに改めて見ると、二人とも見惚れてしまうほどの美男美女だ。
そして桃もそれに引けを取らないほどの美少女だ。
駄目だ。なんだか辛くなってきた。
こんなところに俺が混ざってもいいのか? 今更ながらそう思ってしまう。
でもこんなことを気にしているのは多分、俺だけなんだろうな。
食べながら桃と楽しく話していた七瀬さんがいきなり話しかけてくる。
「清村さん、どうかしたの?」
「大丈夫、なんにもないよ」
もう気にしないでおこう。
全員、あっという間に食べ終えた。
食べている間、島崎がずっと桃の顔をちらちら見ていたのが少し気になった。
桃にバレてないといいのだが。
「人、集まってきたしそろそろ店出よう」
良かった。桃にはバレてなさそうだ。
全員で店を出ると外は既に暗くなっていたから家に帰ることになった。
「それじゃあ、俺こっち側だから! また明日!」
島崎はそう言うと反対側の道を走って帰っていった。
まさか本当に食べただけで帰るとは思わなかった。
桃の連絡先を聞くとかなにか行動をすると思っていたけどなにもしなかった。
いや、島崎からしたら放課後に桃と一緒にいれただけで充分なのかもしれない。
「俺たちも帰ろうか」
「そうだね」
三人で同じ道を歩いて帰る。
「じゃあ私、ここ左だから!」
「分かった、また明日ね!」
「うん。京介も……」
「うん、また明日」
そう言うと桃は満足したのか手を振りながら歩いていった。
そして七瀬さんと並んで歩く。
しばらく歩いているけどなぜか七瀬さんはずっと俯いている。
もしかして今日が楽しくなかったのだろうか? それとも島崎が来たことに怒っているのか?
「七瀬さん?」
「…………」
返事がない。
やっぱり怒っているのかな?
「清村さん」
「え!? ど、どうしたの……?」
怒られる覚悟をして一度、固唾を呑む。
「その、私も……京介くんって呼んでもいいかな?」
「——え?」
思考が追いつかない。
それはつまり、呼び名を変えたいということなのだろうか?
七瀬さんはそんなことでずっと悩んでいたのか?
それぐらいのことなら。
「えっと、別にいいよ?」
「ほんとに!? やった! それじゃあ——京介くん」
「うん」
「京介くん! 京介くん!」
「なに?」
「京介くん、京介くん、京介くん!」
「分かったよ」
そのあと結局、家に着くまでずっと名前を呼ばれた。
陰キャに彼女はできない 砂糖琉 @satouryu
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