第3のスキル《コンセプション》

 


 絶体絶命のあたしの前に現れた、白馬に乗った王子さまは――



「《スクイッド》、待たせたな!」

「《ラビット》!?」



 ――見覚えのある、屈強そうなスキンヘッド男だった。




「『ウォール(壁)』!!」




 たすかったーーーっ!

 あたし、今のはホント危機一髪だった。

 というかソレがアンタの新しい3つ目のスキル?




「『塗壁ぬりかべ』マン、参上!」




 ぬりかべ!


 それって日本の妖怪じゃん。


 外人のクセに、グッドチョイス!



 ……一反木綿いったんもめんと子泣きじじいはどこだってばよ?





「《ラビット》! あたしがこれから新しいスキル使うから、それまで絶対に突破されないで!」


「おい、《スクイッド》。俺の新しいスキル『ウォール(塗壁)』はそんなに持たねえぞ!? どんくらいだ」


「すぐ終わるから! 20秒だけ持ちこたえて!!」


「結構なげーよ! ……オーケー、耐えてやるから、オマエは新しいスキルをぶちかませ!!」




 あたしはもう一度、今度こそ集中する。



 再び、全てのターゲットを概念的に、一直線上に配置する。


 敵の陣地の旗。

 全ての敵の母船マザーシップ、八隻。

大穴ラージホール】四ケ。

 敵の母星マザースター

 暗黒恒星ダークスター


 そして最後に、敵の神クソッタレも忘れずに。



(いくよ、あたし!)



「コンセプションっッ!!!」



 そう叫んだ瞬間、あたしの存在が、この地球上、この宇宙からかき消えた。




 ◇




「コンセプションっッ!!!」



 概念上、つまり妄想上では、あたしと敵の旗の間を遮るモノは存在しない。

 《ラビット》の『ウォールぬりかべ』を飛び越えて敵の旗から敵の神まで、全てのターゲットを『フライングフィッシュ』で一度に突き刺して突き破るイメージで行く。



「スクイッドっっッ!!!!」



 愛しのマイ・ベイビーの力を借りて、あたしは地球上のフランスの地から別の宇宙にいる敵まで全てを、一度にとどめを刺す経路を見つけた。


 というか、妄想的かつ概念的に、一直線上に配置し直した。




「フライングフィッシュっッッ!!!!!」




 その瞬間、あたしは概念上、別宇宙、次元、時間、存在全てに穴をけながら跳躍ちょうやくする。




 それは一瞬のことだった。



 あたしの身体は瞬間的に別の宇宙までたどり着いていた。



 敵の母船マザーシップ、【大穴ラージホール】、暗黒恒星ダークスター、敵の神……


 すべて、あたしのスキル『スクイッド・フライングフィッシュ・コンセプション』で、一撃の元に葬り去った。



 ――いや暗黒恒星ダークスターだけは、あたしの空けたから、ゆっくりと崩壊し始めた。



 そして、神――おそらく創造主――を失ったことで、この宇宙自体もこの先崩壊していくのかもしれない……。






 一瞬の内に別の宇宙に跳んできたあたしだったが、あたしの意識・認知能力は追い付けていない。

 あたしの意識はまだここにはなく、この地点に目掛けて飛んできている途中のようだ。



 まだ、あたしは先ほどの『フライングフィッシュ』の跳躍ジャンプの余韻をゆっくりと味わっている。


 全てを突き破って移動丶丶してきた感覚を反芻はんすうして震えている。




 ああ――――。

 なんと気持ちが良い丶丶丶丶丶丶丶丶丶





 でも……。

 でも、ここまでみたい。

 あたしの命運は。



 ここから元の場所に。

 元の宇宙に。

 地球まで戻る力なんて、あたしには残っていない。



 残されたエネルギーが空っぽゼロ



 きっとこの見知らぬ宇宙、異世界であたしは終わってしまうのだろう。




 それに、この別宇宙までには地球人の神様の力は及ばないかもしれないな。

 輪廻の輪があるとしたら、そこにも戻れなさそうだ。




 空気がない。

 息などとうに出来ていない。

 体中の液体が沸騰しているかの様に失われていく。





 すでにあたしの目には何も映っていない。


 ただ、『スクイッド(イカ)』の力のみで、暗黒恒星ダークスターが最後を迎えようとしているのを見ていた――。





 これが、超新星爆発スーパーノヴァなのね――しゅごい丶丶丶丶





 この盛大な天体ショーを目の当たりにして、あたしの心は感動に包まれる。



 しかし、意識は気持ち良さを反芻してはいるけど、実は身体の方が今まで味わったことのないレベルの激痛に襲われていた。




 この絶景と感動に比べれば、肉体の痛みなど一瞬の幻みたいなものと思えば大したことないのかもしれない。




 でもでも。

 激痛が軽く我慢の限界を超えてきていて。




 歯医者で全ての歯と頭蓋骨と脳ミソに麻酔無しでドリルで穴をけられているような。




 焼けた鉄板の上をトラックに引きずられながらダンプカーに踏み潰されてドライアイスを口と鼻と目と耳とお尻から同時に食べさせられているような。




「痛みって、ただの電気信号」




 だからあたしは、そう思うことに決めた。

 激痛を我慢するのではなく、手離すことにした。


 ちなみに、概念の力は、もう使えない。

『スクイッド』の視界も無くなり、完全な漆黒の闇が訪れていた。


 本当にエネルギー切れだった……。




 というワケで、あたしは身体で感じる苦しさではなく、意識で感じる気持ち良さにチャンネルを合わせていく。






 ……はー、気持ち良い丶丶丶丶丶







 マイ・ベイビー。


 愛しの我が子。


 キミは神様の子なんだから、あたしが死んでも、きっと大丈夫よね?





 ごめんね。


 ママを助けてくれてありがとう。




 ママは死ぬわ。


 ママは。



 ママがんばったよね……?




 ママは――あたしは――







 あたしがただのフリーズドライ肉片になろうとしていたその時だった。




 力を失っていたハズの、子宮の中のベイビーが、また動き始めた。




(だめっ! そんな無茶なことしたらっ)




 あたしのベイビーは、なんと、自らの存在をエネルギーに変換しようとしていたのだ。




(だめーーっっ!? キミが、キミがsn▉dぁΛ▉ぅマiャ▉……)





 あたしの存在が崩壊してこの世界から消えていこうとしていた。





 もう、何も考えられない。





 最後に赤ん坊の笑う声が聞こえた気がした。




 ◇




 あたしが再び意識を取り戻した時、そこはさっきまで戦っていたエッフェル塔跡前だった。


 高い高い青空が、あたしの目に突き刺さる。



「えっ。あれっ?」



 ――あたし、別の宇宙まで行って、敵をやっつけて、死んだはずよね?



 敵の母星マザースター暗黒恒星ダークスターに敵の神様までも討ち取って、あたしも帰還するエネルギーを使い果たして討ち死にみたいになって……。



敵の母船マザーシップの全反応が消えてるぞ! 旗も消えている……。えっ、【大穴ラージホール】も全部消滅した――!? 一体誰がやったんだ!?!?」




 仲間の誰かが、戸惑いが混じった喜びの声を上げている。




「《スクイッド》だ! 《スクイッド》の新必殺技だ」




 これは、《ラビット》の声……。




 《スクイッド》って、誰……?




 それはあたしか。




「あっ――」




 あることを思い出したあたしは、下腹部に手をやる。




「あぅっ……」




 無意識では分かっていたんだけど。


 あたしのお腹から、子宮から。


 あの子の存在が、キレイさっぱりいなくなっていたんだ。





「ああ゛ぅ゛っ゛、あ゛ぁう゛あぁ゛う、あ゛ぃ゛ああ゛だし゛の゛、あ゛ぁぃっ」




 あたしのベイビー。




 あたしの赤ちゃん。





 まだ名前も付けてあげていなかった赤ちゃん。





「そうだよな、《スクイッド》! 嬉しいよな。泣くほど嬉しいよな! ほんとよくやったよ! お前がやったんだ! いやぁ、女だてらすげーよ! みんな、《スクイッド》を胴上げしてやろうぜ!!」


「ぢ、ぢがう゛の゛、ちぃ゛がああ゛ぅ゛っ゛、あ゛う゛あ゛う゛ぁ゛う、あ゛あ゛だし゛の゛、あ゛がぢゃっ、ん゛ぁ゛う゛ぁ゛うっっ」




 あたしは、涙と鼻水と嗚咽を撒き散らしながら、本当の涙の意味は理解してもらえないまま、仲間のみんなの賞賛を浴び続けていたのだった。







 ~Fin~









 。



 。



 。



 。



 。





 。






 。






 ▉▉▉▉▉▉「ボク言ったよね?『人は三回死ねる』ってさ……」


 ?????「ばぶぅ……?(でもまぁ半分、人じゃないし?)」





 ~True End~





――――

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【イカ】別宇宙人の侵略で終末間近の地球、日本のJKが「受胎!」と叫ぶ【トビウオ】【最終決戦はフランスで】〜異宇宙の神様から3回死ねる権利もらったのに4回も死んでしまった件〜 黒猫虎 @kuronfkoha

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