5ー⑦ 処刑の阻止〜後編〜

 光の幻影の動物たちは今なお広場にいる人を追い払おうとしている。


 土柱の上に立つルーカスを見上げると、目が合った。ルーカスが土の柱をフリージアの足元に出し、ルーカスの元へと運んだ。


「あとは『鍵』を手に入れましょう」


 ルーカスはそう言うと、土魔法の足場を皇帝が立つ城門上へと向かわせた。


「まったく、大騒ぎをしたものだ。でもどうする、お前達は魔法で攻撃ができないだろう」


 城門の上、皇帝のわずか数メートルの位置に降り立った。ほくそ笑む皇帝のその胸元には『太陽の鍵』が陽の光を浴びてきらめいている。


「えぇ、私たちはあなたを攻撃しないわ。でもあなたも女神に守られた我々を殺すことはできないのでしょう?」

「余計な知恵をつけたな、でもこれならどうだ」


 皇帝の右手の先に黒炎が灯る。その黒炎はどんどんと大きく燃え上がり、人ほどの大きさになると、そこに人影が映された。肩までの髪を内巻きにして、黒いワンピースに白いエプロンをつけたその人はロミ先輩だった。


「ロミ先輩?」


 ロミ先輩は意識がないようだ。目は開いているのに、首はだらんと垂れ下がり、足は地についておらず宙に浮いている。


「まだ、死んではいない。でもこれ以上悪さをすればこの者を殺そう」

「姫様、出直しましょう」

「でも……」


 これ以上は皇帝には近づけない。近づけば皇帝はロミ先輩に何をするかがわからない。しかし、出直したとしてロミ先輩は助かるのだろうか? 事態は一刻を争う状況に見える。ならば――


「ルーカス様、『太陽の鍵』のことは私にお任せください」


 これこそが正しい選択だと思った。それがロミ先輩を助けて、『太陽の鍵』を手にいれることのできる最善の答えだと。


「なにをなさるおつもりですか?」


 ルーカスの静止する声が聞こえたが、フリージアは皇帝に向かって一歩前へと出た。


「ロミ先輩を返してください。私が代わりますから――」

「姫様……それはいけません……」


 皇帝はにやりと笑みをつくるとめ回すようにフリージアを見る。


「私たち以外にもお兄様だってあなたを狙っているわ。月の国の民だっていざとなれば剣を取る。私を人質にすれば良い交渉カードになるはずよ」


「ほお、お前の兄にしていたよりも過酷な環境を強いるがいいのか? たとえば、手足にはかせをつけ魔法を封じ、命じれば余の元にすぐに侍らせる」

「かまわないわ」


 その方が好都合だ。四日後の新月の夜、皇帝の近くにいられれば、それだけチャンスが得られるのだから。


「姫様、何を言っているのかわかっておいでですか? 行かせる訳にはいきません」


 ルーカスがフリージアの両肩を掴み、真正面から真摯な眼差しを向けてくる。


「離してください。ルーカス様も皇帝の近くにいられるこの方法が一番良い手だと本心では思っているのでしょう?」


 ルーカスにしか聞こえないほどの小声で言うと、肩を持つ手の力が弱まった。ロミ先輩も助けて、それでいて皇帝封印のチャンスを伺う。二兎追うのだから、それなりに犠牲は必要だ。


「ですが……」


 ルーカスの手を振り払うと、皇帝に向けて歩き始めた。皇帝の目の前までくると、皇帝はフリージアの肩を抱いた。その瞬間ロミ先輩がルーカスの元へと飛ばされる。ルーカスはロミ先輩を抱え込む。とても苦しげな顔をしたルーカスに、そんな顔をしてくれるのだと嬉しくも思った。


 皇帝は黒炎を放ち、そのままフリージアもろとも炎に包むと、視界は暗転し、そのまま意識も遠のいていった。


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