5ー③ それぞれの役割

――陽月花が眠る時その力を封印せん

――三個の鍵を重ね、いましめめのことわりを唱えよ


『太陽の本』に書かれていたのはそんなことだったとルーカスは言った。


「これは、どう読み解いたらいいの? まるで暗号ね」

「『本』は自体が、女神や従者たちの手記をつぎはぎしたようなもので、古いものですし、我々にとっては暗号のようでした」

「それは、『月の本』も『花の本』も同じだな」


 フリージアは『本』の中身を見たことがない。無事に月の国へと帰ったら、王族として『月の本』はちゃんと目を通しておきたいと思う。だからこそ、ちゃんとお兄様に認めてもらわなければならない。


「えっと、一行目は……陽月花…花の名前かしら……? 眠る時……なら人の名前? 眠るなら夜よね……」

「新月の夜ではないでしょうか。それであれば太陽も月もありませんし、花は夜には活動が鈍りますから記載に合致するでしょう。まぁもしそうだとすれば、新月の夜にしか封印はできないということになりますが……」


 メガネに手を添えながら、サイラスが言う。


「新月はちょうど七日後ですね」

「本当にサイラスは色々なことをよく知っているのね」

「アルベルト様にお使えする身としては当然です」


 メガネの中心に手を当てたサイラスが少し照れているのがわかっておもしろい。


「新月は一ヶ月に一度です、来月あたりを目標としますか?」

「それはダメ」


 サイラスのいう通り、準備をしっかりと整えて、今月ではなく来月の新月に封印を決行するのが良いのだろう。しかしそれでは遅いのだ。ロミ先輩を助けたいし、それだけではない。一ヶ月遅らせるということはさらに犠牲者を増やすということだ。


「本当は、一年も時間をかけたらいけなかった。あと一ヶ月延ばすことで犠牲者はさらに増えるわ。それは月の国の民かもしれないし、そうでなくてもその者には家族がいる。もう誰も失ってはいけない」


 部屋はしんと静まりかえる。わかっている、確実性のある方をとるべきで、大多数を助けるために少数の犠牲は致し方ない時もあることを。


「ですが…」


 サイラスが何かを言おうとしたが、アルベルトが止めた。


「皇帝封印の作戦の決行は一週間後だ」


 アルベルトが宣言をしたことで、もう異論は出ない。サイラスは承知しましたと答えた。


「フリージア、『月の鍵』は持っているだろうな」

「あ、はい」


 フリージアは胸元に手を置いた。皇帝はまさかフリージアが『月の鍵』を持っているとは思わなかったのだろう。首には細いチェーンで繋いだ『月の鍵』がちゃんとある。


「そのまま大事にもっておけよ」

「もちろん。でも、封印のためにはあと二つの鍵をなんとかしないと……」


 『月の鍵』は確かにここにあるけれど、黒魔法の封印には三国全ての『鍵』を合わせる必要がある。『花の鍵』と『太陽の鍵』この二つを七日後までに用意しなくてはならない。


「それにつきましては、本当に申し訳ございません。私の不徳の致すところです」


 ルーカスは申し訳なさそうにしている。『太陽の鍵』は皇帝が持っているのだ。それを取り返さなくてはならない。


「でもあの状況では仕方なかったと思うわ、だから……」


 皆の視線を感じた。


「なっなに?」

「なんでもないが……えらく親しいのだと思ってな」


 アルベルトはため息をついた。そのため息の意味をフリージアははかりかねた。


「えっと……そんなことは決して」


「俺は花の国へ『鍵』を取りに行ってくる」

「私は『太陽の鍵』を取り戻しましょう」

「フリージア、お前も『太陽の鍵』を手に入れる方法を考えろ。協力体制といえど、帝国の皇子は完全に信用しきることもできないからな。あとは皇帝を封印のために誘き寄せる方法を考えること、それがフリージアの役割だ」

「承知いたしました」


 任せる。その言葉が素直に嬉しかった。しかしお兄様は花の国へと行き、もう助けはこない。今度は失敗はできない。


「とろこで、鍵を重ねた後、戒めの言を唱えよとあるわ。戒めの言は何なのかしら?」

「それは既にわかっている」


 アルベルトは言った。


「『花の本』には戒め言が書かれていた。戒めの言は『ゴードンに永遠の祝福を』だ」

「ゴードン?」


 人の名前だろうか? 封印のための言葉で戒めなのに祝福という言葉が入っているのは違和感がある。


「六日後この家に集合だ。この家には闇魔法で存在を隠せるように魔法をかけておく」


 アルベルトの言葉にそれぞれ決意を胸にした。

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