4ー④ 秘密の部屋
ホールから外へ出ようとすると、トランペットのファンファーレが鳴り、皆がホール前方、階段上の踊り場へと視線を向ける。トランペットの余韻とともに踊り場の奥から出てきたのは、黒地に金装飾の衣装を
「皆が楽しんでくれているのであればそれで良い。余もここで見ておる」
衣装のせいかいつもより威圧的に見える皇帝の宣言が会場に響き、静寂と緊張が走ったが、音楽隊が優雅な音を奏で始めたことで、すぐにもとの喧騒へと戻った。初めから皇帝が来ると分かっているからか、ティーパーティの時のような異様な雰囲気にはならなかったものの、心なしか空気は硬くなったように感じる。
そんな会場を後にして廊下に出ると、冷たい空気が体にあたり、高揚した気分は冷やされ、思考が鮮明になっていく。
地図によると、ホールを出てまず右に進むようになっていたはずだ。
地図が示す場所を目指して進むと、徐々に人の気配はなくなり、灯りもなくなっていく。侵入禁止の札がかけられたポールを越えてさらに進むと、月明りだけに照らされた暗い通路となった。
人の気配がないことを何度も確認してから、仮面をはずした。髪は瞬く間に色が変わり、窓から差し込む月の光が金色の髪に反射する。手に光魔法で明かりを灯すと、赤い絨毯に、厳かな調度品と今まで暗くくすんでいた景色が鮮明になった。そのまま月明りが導く廊下を進む。
「多分この辺り……」
別館へ続く通路の入口には大きな鏡がかかっていた。鏡といっても
鏡がドアになっているのだろうか? とりあえずそっと触れてみるが、鏡は冷たく、手には
鏡の右側の淵を持ち、手前に引いてみる。鏡は微動だにしない。押してみる。これも何も起こらない。
じゃあ横向き? 右から左へ力をかけてみる。すると鏡は左へわずかに動いた。その隙間から向こう側が空洞になっていることがわかる。フリージアは力をもう少し強く籠めた。鏡はさっきよりも左へ動いたが、何かひっかかっているようで動かない。長きにわたって、この鏡は動かされてはいないのだろう。フリージアは持てる力を最大限手にこめて左へと引くと、ようやく人一人がなんとか通れる隙間ができた。
鏡の扉の奥を光魔法で照らしてみると、下へと続く十段程の石階段が伸びていた。ここは陽明館の一階だ。階段は地下へと続いている。
やはり明らかに何かがこの先にある。そう思うものの、真っ暗で窓もない階段へ足を踏み入れるのは怖い。もし、この入口の鏡が閉まってしまったら? その時は苦手だけれど闇魔法で脱出すればいい。でも――
フリージアは溜息をつく。この後に及んでやらない理由を探そうとするなんて、なんでこんなに弱いのだろう。
心の中でよしと呟き気合を入れると、フリージアは拳を握った。
ドレスの裾を持ち、ゆっくりと石階段を下りていく。一段下るたびに履いているヒールが石階段に当たる音がよく響いた。
全ての石段を降りるとそこは行き止まりだった。石でできた天井は低く、手を伸ばせば簡単に手がつき、踊り場は人二人が触れ合わずにぎりぎり立てる程度の広さしかない。
地図では別館に続く通路があったのはこの場所のはずだ。ここは不自然に隠されていて、きっと何かがあるはずだと直感が告げている。でも周囲は石の壁があるだけで、何もない行き止まりである。
フリージアは床、天井、壁――と順番に触れ、光や闇の魔法を当ててみた。しかし何もおこらない。
絵本に入っていた鍵をポケットから出してもみたが、鍵穴がない以上どうしたら良いのかわからない。
他に何かできることは、なにか見落としていることはないだろうか。
「何をしているのですか?」
後ろから急に声がしたので体が硬直した。こんなにも静寂な空間であるのに、集中しすぎて足音一つ感じ取ることができなかった。こんなところにいったい誰が?
振り返ることなく思考を巡らす。闇魔法を使って逃げた方がいいだろうか? でもやっとここまで来たのに。
階段を下りる足音が聞こえる。光魔法で照らせば、まぶしさで相手を
「ルーカス?」
あまりにも驚いて、魔法を放つまでの間ができてしまった。
しまった――
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