3-⑤ 招待状
「アリアさん、なんだか久しぶりでありますね」
図書館の休憩室で、マスカレードや『本』、そして黒魔法について思考を巡らせながら惣菜パンを食べていると、ノア先輩がやってきた。
「最近、別業務に従事されていると聞きました。おかげですれ違ってばかりです。ミーナさんもロミさんも会いたがっていましたよ」
最近は別館での仕事がどんどんと増え、先輩方とはなかなかシフトが合わずすれ違っていた。庭園ティーパーティの日以来ではないだろうか。
「私も先輩方に会えなくて、寂しかったです」
ノア先輩はフリージアの前の席に座ってまじまじとフリージアを見つめる。
「いやはや、本当に、アリアさんは可愛い後輩です」
「あら、ノアに、アリアまでいるじゃない。なんだか久しぶりね」
タイミング良くミーナ先輩までやってきたので、ランチは一気に賑やかになった。
「アリアさんかなり渋い顔をしていましたが何か考えて事でもしていたのですか?」
「ノア……」
なぜかミーナ先輩がノア先輩の言葉を静止した。
エリーにマスカレードの招待状はなんとかするなんて豪語しておいて、実際は未だ良い方法を思いついていない。
ただし、招待状についての情報は集まってきた。まず、マスカレードの招待状が送られるのは、伯爵家以上の皇位貴族、その年に目立って活躍した人、そして皇帝の推薦らしい。
顔を隠して闇市へと赴き話を聞いてみたところ、例年闇市に流れてくるのは、お金に困窮している人の招待状らしい。しかし今年は、月の国の併合により、帝国内は好景気で、招待状を手放そうという人はいないらしかった。
マスカレードまで、あと二週間ほど、そろそろ焦りを感じている。最悪、闇魔法でワープをするという賭けにでようとは思っているけれども。
「あの、マスカレードの招待状って入手する方法はあるんでしょうか?」
フリージアは思い切って先輩方に聞いてみることにした。
しかし二人からは何も返答がない。それどころか、哀れみ同情するような眼差しを向けられている。なにかおかしいことでも言ってしまったのだろうか。
「アリアさん、どうしてマスカレードなんかに行きたいのですか?」
ノア先輩に聞かれて焦った。平民であるアリアがマスカレードに行きたいと思う理由を慌てて考える。
「マスカレードは、というか舞踏会は女の子の憧れですし……」
この理由でなんとかなるだろうか。
「ノアったら野暮ね。アリア、強がらなくていいのよ。ルーカス様に会いたいのよね」
「え?」
なぜここでルーカスの名前が出てくるのか、全くわからなかった。
「庭園ティーパーティの後、ルーカス様は図書館に来なくなってしまいましたからね。しかし……」
ノア先輩もルーカスの話を広げていく。
庭園ティーパーティの後、なんだか気まずい気がして、ルーカスと話はしていない。
一度だけ別館の作業をしている時に、窓の外を子爵様と歩くルーカスを見たが、それだけだった。ルーカスのことは正直思い出したくないとのが本音だ。心がざわつき落ち着かなくなるから。
「でも、ルーカス様にたとえ会えたとしても、傷つくのはアリアかもしれないわ……」
「しかし、可能性はゼロではないと思います」
「それはノアの小説の中だけの話よ」
それにしても先輩二人は何かとてつもない勘違いをしているのかもしれない。しかし、ここは話を合わせた方が良い……のだろうか?
「そうね……マスカレードの招待状ねぇ。上位貴族であるバーデン家には間違いなく届くことでしょうね。マスカレードに参加できればうまくルーカス様に会う事はできるかもしれないわね……。でもそこまでしてルーカス様に会いたいだなんて」
「いや、私は単に舞踏会に行ってみたかっただけで、深い意味は……」
二人の顔がさらに曇った。
ルーカス・バーデンに会う必要は本当に全くない。むしろマスカレードに行くことで、ルーカスに会う事になってしまうのであれば行きたくないくらいだ。
「マスカレードは貴族だけでなく有力商家や役者などの時の人にも招待状が贈られると聞きました。そちらをあたってみると譲ってくれる方もいるのではないかと思われます」
「ノアは有名女流小説家として招待されたりしないの?」
「私は恋愛小説家ですよ。皇帝が私の書いた恋愛小説を読んでいるなんて想像できません」
「確かに……そうよね。ロミにも相談してみましょう。でもアリア、期待を持って会いに行くつもりなら、私は反対よ」
ミーナ先輩の諭すように真剣な瞳に、なんだか申し訳なくなるけれど、マスカレードの招待状を得るために、話を合わせても良いのではないかと思う。協力者は多い方が良いのだから。
「私も自分の立場は十分に理解しています。ただ、庭園ティーパーティでは少し変な別れ方をしてしまって。ちゃんとケジメをつけるためにマスカレードに行きたいのです」
本当は嘘をついて先輩方を利用するなんてことはしたくない。でも、時には利己的になることが必要なのだと昔お兄様が言っていた。この状況下で、お兄様を頼らないと決めたのだから、利用できるものは利用すべきだ。
「わかったわ。アリアのために、私の人脈でも探ってみるわ」
「私も最善を尽くしてみます」
後ろめたさを感じつつ、先輩二人がすごく頼もしく見えた。
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