2ー④ エリーとのひととき

「姫様、大きなため息ですね」


 そうエリーに言われるまで、フリージアはため息をついている事に気がつかなかった。

 エリーは暖かいお茶の入ったマグカップをソファーのかたわらのサイドテーブルに置いた。


「ため息なんてついていた?」


 エリーはフリージアの横に座り、マグカップに入ったお茶をすすった。王宮で暮らしていた時には同じソファーに並んでお茶を飲むなどありえない事だったけれど、最近は毎日このソファーに並んで座り、いろいろな話をするのが日課になっていた。


「ねぇ『本』は一体どこにあると思う?」


 祝祭のあと、サイラスに聞いた話はすぐにエリーに共有した。


「そうですね……普通に考えれば、宮殿内に隠すのではないでしょうか? 身近に置いておくほうが安心ですよね」

「確かにそうよね。でも宮殿内にあるのであれば、お兄様が情報をつかんでいると思うの」


 アルベルトは帝国宮殿内に住まわされていると聞く。隠密行動おんみつこうどうの助けとなる闇の魔法を得意とするお兄様が宮殿にいて、一年の間になんの情報も見つけられないということはきっと宮殿に『本』はないのだろう。

 フリージアは闇の魔法が得意ではない。その代わり光の魔法は得意なのだが、『本』探しにはどう考えても闇魔法が有利だ。


「後宮はどうです? そこであれば王太子殿下もお入りになることは出来ないかと」

「そうね。でも後宮は権力を握りたいという、野心を持った貴族の娘が集う場所でもあるでしょう。そんなところに隠し場所を作るかしら……」

「確かにそうですね。となると……」


「女神を祀る《まつる》聖堂、月の国と同じく霊廟れいびょうとかはどうかしら?」

「確かに隠し場所になりそうですね。確か月の国の『本』は霊廟にあったのでしょう? 思い返せば月の国の霊廟は不自然に警備が厚かったですものね。そういった警備の手厚さといった視点で考えてみるのも良いかもしれません」


 警備の厚さ……


「姫様が働く図書館もあり得るのではないでしょうか?」


 確かにそうだ。帝国図書館は誰でも入れるから、一見隠し場所には向かない気がするが、例外となる場所があるのだ。


「帝国図書館にも警備が厚い場所があるの。貴族しか入れない陽明館ようめいかんと王族しか入れない別館。それに――」


――あなたの探し物も見つかるといいですね


 今日の子爵様の言葉も思い出される。どうしてもあの言葉は違和感でしかない。

 フリージアは今日の出来事をエリーに話した。


「もう少し私は図書館を探ってみるわ。子爵様は怪しいけれど、別館には何かがある気がするし……」


 楽観的過ぎるだろうか。これは罠かもしれないし、本当に探しものをみつけるヒントなのかもしれない。どっちにしろ、別館に入れることになったのだ。調べてみるしかない。


「姫様、私はとりあえず大聖堂と霊廟れいびょうを調べますね」

「ありがとう」


 その後はエリーとたわいもない話で盛り上がった。パン屋によく来るお客さんの話や、本屋であった出来事。ただしルーカスの話だけはしなかった。隠す必要はないのだけれど、話すことが躊躇ためらわれた。

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