第3話「エンドロード その3」
バニーガールと言えば思いつくことはやっぱりうさ耳とおっぱいだと僕は思う。
なんでそんなことを言い出したかって、そりゃあ目の前にバニーガールがいるのだからそう思うのも全くの見当違いではないだろう。
なんなら正常で正しい感覚なんじゃないか?
事の発端は後輩の女子である長谷川──いや、古瀬みゆが図書室から出て言ったすぐ後の話。
年がら年中学校に通っている身だと言うのに、決して広くはない図書室ではあるが一人ボッチだといつもの二倍は広く感じるもんなんだな、としみじみと身をもって僕は体感していた。
嵐が過ぎ去った後のやり切ったようなやり切れなかったような中途半端な気持ちを誤魔化すかのようにボーっと窓に映る紅葉を眺めたり、普段は横目ですら視界に入れない参考書や自己啓発本のコーナーの本棚を見て回ったりしていた。
もちろん、彼女に言った“数学の勉強をする”というのは嘘なので勉強をする気など初めからない——もともと図書室に来た目的が校門で待つ新垣みみが飽きるまでの時間稼ぎだったから、図書室自体に目的がないから仕方がない。
とは言え、図書室にいる以上、目につくのは基本的に本棚ばかりで、だからこそ思うことも大抵は本に関わるものになっていくのも仕方がない。
──なんでも良かった。とりあえず考える隙間を埋めておきたかった。
そうして僕は図書室には“とある曰く付きの本棚”があることを思い出したのだ。
「そういえば確か——」
特に有名と言うわけでもないし、この中学校の七不思議に数えられるほどの謎という話ではないのだけれど——それこそ、せいぜいクラスに一人だけでも知っている人がいるかどうかってぐらいの大して語るまでもないぐらいの小話なんだけれど——この図書室には“絶対に本が取り出されない本棚”があるらしい。
実際にそれが本当にあるのかどうか検証した人がいれば聞いてみたいが、当時の僕にその話をした背の低い藤村虹火でさえもちょっとした待ち時間の暇つぶしに話してくれた程度の関心の薄さで、果たしてどの本棚がその“絶対に本が取り出されない本棚”なのかはさっぱり分からない。
じゃあ暇つぶしに手あたり次第本が取り出せるのか探ってみるか、なんてセリフを言うのは大抵わた——いや、僕だったりする。すると大抵みみやみゆは怪訝そうな顔になって文句こそは言うけど結局は手伝ってくれる。
「…………」
一人でもやっぱりそういうところは変らないみたいだ。
一通り本棚から本を取り出す作業を繰り返した。
四段程度ある本棚を一段ずつ、適当に選んだ一冊を取りだしては戻して。背よりも高いところにある棚は手を伸ばしてみたけれど届かないので諦めて触れられる範囲に絞って繰り返した。
結論から言ってしまえば噂は嘘だったんだろう。
どの棚からも本は取れたし、中にはもとから本が借りられているらしく空いている本棚もあった。
一人だけだったから時間だけはめちゃくちゃ掛かってしまった——まぁこれだけ時間もたてばみみも諦めて帰っただろう。
「…………」
これからの事を思うと少し腰が重い。
それでも、とりあえずは校門前を確認しに行こうと思い図書室を出ようととびらに手を掛けた直後だった。
「だーれだ」
“聞き覚えのある声”と同時に背後から手が伸びてきて視界を覆われた。
——ゾッと背筋に緊張が走る。
だって図書室には誰もいなかったはずでは?
「あれ~分からない?」
やっていることは虹火とおんなじことだけど絶対に虹火ではないと断言できる。
それにその声……あの人に似ているだけでちょっと違う気がする。
「……君は誰?」
なんとなく振り向いてはいけない気がした。こればかりは完全にそんな気がするだけだったけれど、どうもその感覚は正しかったようだ。
「あれぇ、もしかしてもう勘づいた系? マジか」
正体不明の背後の人物は急に口調を荒げる。
勘づいたと言っていたが、何にだ?
て言うかなんで急にキレるんだよ。
「マジでなんなのお前? どうしてオレのアジトがここにあるって気づいたんだよ」
「……アジト?」
「とぼけても無駄だからね、もう遅い。——望み通り入れてやるよオレのアジトによぉ
! ただもう二度と出られないだろうけどな!」
——急に体の自由が利かなくなるほどの金縛りにあい、背後へ吸い込まれていく。どんどんとスピードは高まっていきこのままでは壁か本棚に衝突してしまう。
まずい、と思い逃げようと足に力を込めるもどうすることも出来ない。
衝撃に備えるにしても指すらも動かせないのでは対策のしようがない。だからせめて心の準備だけ整えた。
しかし、しばらく僕は背後に吸い込まれているはずだというのに一向に壁にぶつからない。いや、それどころか——動いていない……⁈
確かに僕は背後に吸い込まれていったはずなのだが、どういうわけかとびらに手を掛けたままの状態でただ立ち止まっていた。
しかも——
「動けるし喋れる……?」
両手はグーもピースも出来る。
Y字バランスだって——いや、これはもともと出来ない。
「——驚いたようだなぁ、ま、それもそうか」
背後で声がした。
僕は勢いよく振り返った。
「ここはモノクロームの影の中なんだからなぁ」
そこには黒髪ロングの女の子が挑戦的な笑みを浮かべて机の上に座っていた。
図書室には似つかわしくないうさ耳に加えてわざと谷間を強調したかのような際どいおっぱいがあった。
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その魔法少女は女の子じゃなかったから。 真夜ルル @Kenyon_ch
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