第2話 乱闘
「……えっと、なんて?」
再び、エレシアは聞き返してしまう。
すると、アルティは特に顔色を変えることなく、
「ですから、交換条件として私とえっちなことがしたいと言うのであれば、それは検討の材料となります」
「……」
自分から掲示した条件であるにもかかわらず、エレシアは思わず顔を顰めてしまった。
そんな条件を掲示されて、すんなり受け入れる騎士がこの世界にいるだろうか――まず、いないだろう。
ならば、目の前にいるのは騎士の名を騙っているのか。
この辺りに来るにしては、あまりに小綺麗――それに、わざわざエレシアを捜して話しかけてきた。
正直、ここらの仕事で恨みを買っていないかと言われたら否定はできない。
故に、本物の騎士であるかどうかを疑ってしまった。
だが――彼女の立ち居振る舞いや言動から鑑みると、おそらくは貴族の出身。
騎士であれば珍しいこともないし、そもそもエレシアに何か仕掛けるとして、ここまで回りくどいことをしてくる者がいるだろうか。
(……でも、そうなるとこの子は私の条件に納得してる、ってことになるのよね)
考え込むような仕草を見せて、エレシアは再び酒を口に運ぶ。
「どうかなさいましたか?」
「……いえ、まさか受け入れられるとは思っていなかったから」
「? エレシアさんが掲示した条件のはずですが」
「だからって、普通は受け入れないでしょ? えっちなことって、要するに『そういうこと』をするって言ってるのよ?」
「はい、理解しているつもりですが」
エレシアの念押しするような確認にも、アルティは冷静に答えた。
ポーカーフェイス――とでも言うべきか。
それとも、エレシアが手を出さないと思って腹をくくっているのか。
――そうだとしたら、彼女にとっては当てが外れたことになる。
「ふぅん……。そう、受け入れるっていうなら、いいわよ。近くに宿を取っているから、まずはそこで――」
「なんだよ、楽しそうな話してるなぁ」
そう言って近くに座り込んだのは、このやり取りを聞いていた男達だ。
エレシアはそれを見て、露骨に嫌悪感を見せる。
「なに? 関係ない奴らは入ってこないでほしいんだけど」
「まあそう言うなよ。こっちの小娘は騎士か? 今の話、俺らでよければ相手してやるぜ?」
――断片的に聞こえていたのだろうか。
男の一人が、アルティの肩に手を伸ばす。
エレシアは腰に下げた剣の柄に手を触れた。
だが、それを抜き放つ前に、アルティが男の手首をつかむと、
「いたたたっ!」
「失礼します、今は仕事の話をしているところですので。邪魔をされては困ります」
「てめえ、何しやが――ぐあっ!?」
もう一人の仲間が慌てた様子で懐からナイフを取り出すが、アルティはそのまま手首を掴んでいた男を仲間達の方へと蹴り飛ばした。
バランスを崩し、他の客にまで被害が出る始末。
「やりやがったな、この野郎!」
――ぶつかられた客が怒り、それが乱闘の合図となった。
アルティは小さく溜め息を吐くと、
「……仕方ありません。ここでは落ち着いて話もできそうにありませんので、まずはこの場を収めてから――」
「いやいや、何言ってるのよ。この隙に逃げるのよ!」
「っ!?」
アルティの手を掴み、エレシアは乱闘に巻き込まれる前にその場から彼女を連れ出した。
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