第2話
「それで、メリキップ様は歴史に詳しい方なら戦えない方でも良いと?」
「はい、私は戦ったりするのは自信があるんですけど・・・・他のことはちょっと微妙かなと」
「そうですか・・・・・」
私は悩んだ結果、魔女の事を元々知っている、理解出来る人を仲間にしていと思った
冒険者としての登録はここに訪れた人全員にされるようだし、戦わない、戦えない知識人ぐらい大勢居るだろう
「では、少しお待ちください」
そう言うと人材部屋の受付、ジンザーさんは奥の部屋に私の要望に合う冒険者が居ないか確認しに行った
数分後
ジンザーさんは一枚だけの紙を持って帰ってきた
「メリキップ様が求める人材、仲間に当てはまる方ははたった一人でした」
「そうですか・・・」
「では、ご紹介させていただきます」
「よろしくお願いします」
「まず、お名前がクティルスという方で、冒険者になってからまだ一ヶ月しか経っていない低級冒険者の方です。基本的には街の人達に様々な勉強、特に人間と魔物達の戦争の歴史を教えており、その時に得たお金で宿代や食事代を払っているようです。そして、今まで一度も魔物を倒したことが無く、お酒を飲むと自分語りや大声で騒ぐようになり、厄介だと書かれています」
「へぇ・・・・」
「ちなみにここに書かれていることは、一階の酒場で働く者達が聞いた話を元にしており、ここに書かれている通りの人間だと決めつける事は出来ません」
お酒を飲むと態度が大きくなるなんて人間には当たり前のことなんだし、特にこれといった問題もなさそうな感じだな・・・・
「何か質問はございますか」
「そのクティルスさんの歳とか分かりますかね?」
魔女である私の方が長生きするのは当たり前なのだが、人間と魔物の戦争は多分、私が封印されていた三百年間の間にあったことだろうし、出会ってすぐ死んでしまう老人だったら、逆に複雑な気持ちになる
「えーと、私の予測ですが、二十歳ほどかと思われます」
「そうですか・・・」
「どうします?もし会うのならあと一時間ほどで日没ですし、一階でお待ちになっていたら良いと思いますけど」
「じゃあ、一階で待つことにします」
「はい、では一階にお部屋をご用意させて貰います」
「色々ありがとうございました、ジンザーさん」
私はそう言いながら立ち上がる
「冒険者の方々をお助けするのが我々の仕事なので」
私は部屋の扉を開け、一階へ降りていった。
一階に降りると、私の名前とクティルスさんを待つことを確認され、カウンターの奥の部屋に案内された
その部屋は薄暗く、大きな椅子が二つあるだけで、他には何も無い。私はその閉塞感が渦巻く部屋の中で二時間ほど待った、部屋の外では色んな人が仲間の冒険者と共に酒を酌み交わして楽しんでいる
酒のつまみとして話している内容は今日はどんな魔物を倒したか、どんな人に感謝されたかなど、とても平和的なものばかり聞こえてくる
三百年前、私が封印される直前はお酒に酔い、気分的には楽しんで飲んでいても、話す内容は王や神の信仰者に殺された仲間達の事が多く、お酒もただ逃げるだけの道具になっていた
そんな記憶を思い出しながら少し泣いていると
部屋のドアが空き、誰かが入ってきた。
部屋に入ってきた人はまず最初にクティルスと名乗り「君はあの洞窟から出てきた者か」と尋ねてきた
私はやっと会えた高身長の女性に安心感を抱きつつ、質問に答えることにした
「街外れの洞窟から出てきた人か?って、そんな人、大勢居ると思いますけど」
「そうだな、でもあの洞窟から出てくるという事は大きな意味があると私は考えている」
「その大きな意味とは?」
「まず、あの洞窟はこの街が街となる前、約二百年以上前からずっと崩れずに残っている。それ自体は別におかしなことじゃ無いが、あの洞窟は不自然な程に狭すぎる、それに洞窟の基礎となる存在も居ない」
「そこで私は考えた、洞窟の端となっている岩のようで岩では無い不思議な壁は洞窟が出来た後、作られた偽物では無いのかと考えた。もし本当にそうだとしたら、洞窟や深い森の中に暮らしていたと記録されている古代の魔女ではないのかと私は思った」
「今では多くの魔女が死に、残った魔女や魔女の子も魔術の術を捨てることになったけど、もし、あの壁の奥に誰かが居て、その誰かが古代の魔女なら私の夢は叶う」
「その夢って?」
「この世界に住む魔女達の魔術を復活させ、世界の鐘を鳴らすこと」
世界の鐘、この世界のどこかにあるとされる神具の一つだったはず
その鐘は世界を鳴らした者が望むような楽園に作り替える力があり、循環を担っている道具だと記憶しているけど
「なんで世界の鐘を探すの?」
「記録として曖昧な所はあるけど、今の世界は百年ほど前に鳴らされた鐘によって作られた物だとほぼ確定している、私は鐘を見つけ魔物と人間が共生していた本来の世界に戻したい。それに私のお母さんは魔女だったから」
「······。」
魔女は赤子の頃から魔法を操る呪文を持ちながら産まれる、でも、そんな魔女でも魔術は親や師匠と呼べるような誰かから呪文を学ばないと操ることが出来ない
「そういえば、なんで私に貴方の親が魔女だって事を話すの?」
「だってその手から溢れている呪文は魔法のものと言うより、魔術のものだから」
「そう····」
魔法と魔術の呪文の違いは分かっている・・・・
「そうね。そうよ、私は三百年前からやって来た魔術を操る事が出来る魔女、メリキップよ」
クティルスは笑った
自分の推測は正しく、夢を叶える為の道が見えてくる確信に感謝と安堵をするために
クティルスは日々、街の人々に様々な勉強を教えていると記録されているが、それは少し違う
彼女が酒を飲むと自分語りや大声で喋るようになる、それは間違っていない
彼女は魔術の事を知らないが、彼女が持つ時計は魔術を知っている。
「メリキップさん、私としては貴方に師匠になってもらい、この時計に秘められている魔術を私に伝授して欲しいのです」
「そう・・・・」
三百年も経っちゃったけど、私も一応見習いなんだよな
「まぁ、私も色々足りないところはあるけど、師匠とか教師とかじゃなくて、信用出生きる仲間としてならいいよ」
「そうですか‼では、よろしくお願いしますメリキップさん」
「よろしく。あと、さん付けやめてね、なんだか恥ずかしいし」
「はい」
「そういえば、ご飯食べるところってどこ?」
「何か頼めばここでも食べれますけど、魔物の肉と獣の肉どっちがいいですか?」
「えっ?」
「どうしました?」
「いや・・・・」
魔物って死んだら消えていくはずだけど
「まぁ、色々食べながら話しましょうか」
そう言うとクティルスは食べ物を頼むため、部屋から出て行った。
三百年の当たり前 山科宗司 @Impure-Legion
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