三百年の当たり前

山科宗司

第1話

忌まわしき王に洞窟の奥に封印されてから約三百年、私は長い間苦しんできた

この言葉は誰の耳にも届かず、空しく消えていく言の葉になろうとも、名を忘れた王を見つけるまでは私は消えない


「無き物をつなぎ合わせ、有る物と共に。天軸魔術の道として」


私の事を見くびっていた王はこの三百年間をどう過ごしていたのだろう、もしかすると既に死んでしまっているかもしれないけど、別にかまわない

死んだ後はどうせ私も死者の地に落ちる。


「王の舌、王の耳をつなぎ合わし、私を導け」

これで良いはずなんだけど・・・・・


メリキップの天軸魔術に答えた呪文達が王の結界神術からほどけはじめ、洞窟の奥へ飛んでゆく


「美しいなぁ・・・」

たとえ、あの忌々しい王の呪文だとしても、呪文達が解放され世界に消えていく姿は儚く、美しい。

「よし、行くか」

洞窟の入り口はここから歩いて約三十分、魔物達は私が解いた神術に反応して逃げているはずだけど、スライムとか魔力を糧に生きている魔物はまだ残ってるかも

「いや、魔物が絶滅してる可能性もあるのかな・・・・三百年は経ってるし」

「うーん」


十分後

「・・・・・。」

何も居ないし、景色も変わらない

「はぁ、暇だなぁ」

神術の中に閉じ込められてる時は私を囲んでいる呪文を読むくらいの娯楽はあったけど、ほぼ真っ暗な洞窟じゃあ楽しみも苦しみも無いなぁ


そこから五分後

「お?」

ここの壁、魔物が縄張りを示すために魔法を刻んである

「つまり、私が見逃していないならこの先に魔物達の巣?住居?があるはず」

「いやぁ楽しみだなぁ・・・・」



「おっと、あれは・・・・」

魔法が刻まれた場所から約五分、私の目の前に現れたのはゴブリン、醜悪な元妖精ゴブリン、醜いですね

「うーん、魔法を刻める時点でなんとなく察しはついていたけど、役目を忘れただけの妖精って・・・・殺しずらいなぁ」


「グゥア!グゥルア!」

私に気が付いたゴブリンが仲間を率いて走ってくる

「できるだけ苦しまないように、風魔法で首切り落としちゃうか」

私が子供の時はただの悪戯好きだったのに、本当に気味が悪いよ、神に尽くす人間達は・・・・

まずは先頭を走っている灰色のゴブリン、次は赤いの三体、緑色の奴らを十体


「風よ、命を振り切れ」


メリキップがそう呟くと、風が何処からともなく吹き荒れ、ゴブリン達の首を切り落とし、そのままそよ風となって流れていった

ゴブリンの屍を眺めるのは魔女メリキップ、いまだ修行途中の端くれ魔女である。


「今を悔やんでも、悲しんでも、君達は皆、神の狂言に犯された者だった」

「これ、貰っていくね」

灰色のゴブリンが持つ短剣、縄張りの長を表す魔法と誰かの屋敷に仕えていた時の刻印が刻まれている。




そこから約二十分後、洞窟の入り口が見え始めた

「魔素が満ちている森だったから、この三百年で樹海とかになってないと良いんだけど・・・・」


深く帽子を被りながら洞窟を出たメリキップが目にしたものは

三百年前の森では無く、樹海でも無い。多くの人々が行き交う街道だった

その景色を見たメリキップは森の変化と人の多さに驚いたが、それ以上に彼女を驚かせたのは奴隷を連れた人間が当たり前のように歩いている姿だったのだ。



「えっ?」

えっ?どういう事?人間が人間を連れている····奴隷?えっ?

「えっ?」

いや、奴隷は三百年前でも神が禁止にしてたはず、なんで?えっ?

一旦落ち着かないと·····

「誰かに聞いてみるか」

見るからに優しそうで、人に枷を付けてない人


そのままメリキップは洞窟を出て、左に曲がって歩いていった


なんだか、鎧を身につけてる人も多い気がするけど、みんな騎士とか傭兵なんだろうな····

「ん?」


メリキップの目に止まったのは大きなレンガで出来てる建物


「色んな人が出入りしている····

つまり、あそこは酒場かな?」

行ってみるか····


「大陸総合冒険者協会第四支部?」

冒険者って何、え?

冒険?冒険って旅の事だよね····うん。

「入ってみよう」


大陸総合冒険者協会第四支部と言うなの酒場?に入ったメリキップは出来るだけ優しそうな人に話しかけてみた


「あのー、ここって酒場ですよね?」

「ん?はぁ?何言ってんだ?あんた、どこの田舎者だよ、ここは冒険者協会。俺たち冒険者達の為にある、とっても有意義な施設だよ」

「そうですか····」

酔っ払ってるな、この人

「もし冒険者になりたいなら、あそこの階段を登って二階に上がりな。そこで全部聞けるから」

「ありがとうございます」

「いや、ただお酒飲んで気分良いだけだから。頑張ってねー」

笑ってた理由がお酒だった事に気がついた時はビックリしたけど、想像以上に優しいおじさんだった


そのままメリキップは言われた通りに階段を登って、質問部屋と書かれている部屋に入った


「あのーここで冒険者について聞けるって教えて貰ったんですけど」

「はい、ではご要件は?」

「えーと、冒険者ってなんですか?」

「はい、冒険者とは二百年ほど前に神技と言うその名の通り、神の技を与えられた人々が立ち上げた組織、探求者ギルドというものが元となっています。そこでは魔物の討伐や犯罪者の逮捕など様々な問題を解決していて、百年前、突如現れた魔王と呼ばれる魔物達の王を倒す為、大陸の王達が魔王を倒す英雄を求める機関として冒険者協会が出来ました。そして、冒険者協会で活躍する人々の事を冒険者と言います。」

「はぁ····」

すごい早口

「そして、冒険者の中にも階級があり。王様や貴族などの方々から依頼を受ける上級冒険者、支部長や会長から依頼を受ける中級冒険者、私のような受付や街の方々から依頼を受ける低級冒険者が居ます」

「はぁ····」

「では、貴方のお名前は?」

「え?」

「冒険者として登録させていただきます、別に冒険者として登録されたからと言っても、冒険者は他の職業と違って、副業する事も可能ですし、低級冒険者の場合は自分で依頼を受けるまで冒険者として駆り出される事もありません」

「····はい、私の名前はメリキップです」

「はい、メリキップ様。はい、登録完了いたしました」

「それでは、依頼を受ける場合は右側の依頼部屋か、一階の依頼受付台にて依頼を受けてください。依頼と一言にまとめても、様々な種類がございます、もし自信が無いのなら左側の人材部屋で仲間を探してください、人材と言ってもほぼ経験を積んでいないメリキップ様のような方々が多いですけど」

「では、行ってらっしゃいませ」

「ありがとうございます」


メリキップは妙に軋む相談部屋の戸を閉じながら悩んだ

この世界は現在、三百年前とは全く違う状態になっていて、もしかすると魔女のように迫害されていた存在が冒険者として活躍しているかもしれない、昔のように深い森の奥で過ごすのも良いが、忌まわしき王を征伐する夢もある。それなら冒険者として名をあげるべきでは無いのかと悩んだ

相談部屋の前で悩むこと数分、まずは人材部屋で仲間と呼べるような人を見つけることにした。



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