灼ける

憑弥山イタク

灼ける

 太陽神の依代とでも言うべき明朗快活な彼女は、私にとって酷く眩しかった。屈託の無い笑顔に目を灼かれ、濁りの無い声に耳を灼かれ、柔らかな手に肌を灼かれ、彼女の香りに肺を焼かれ、いつの間にか、私の体は彼女に灼き尽くされていた。

 太陽に触れれば灼き殺されるとは、学舎の学徒でさえ理解できる。とは言え私には、灼け死ぬと理解しても、彼女へ近付きたかった。彼女に、この手で触れたかった。

 来る日も来る日も身を灼かれ、来る日も来る日も焦がれた。

 しかし、グラスへ注げるカクテルの量に限界があるように、私の中にあるグラスも既に満杯である。僅かな揺れが起きるか、あと一滴の欲が加われば、私のグラスから液状の欲が溢れ出す。

 内なる欲を抑え込むように、私は思わずしゃがみ込んでしまった。幸いにも此処は、職場ではなく運動公園。傍から見れば、運動で疲弊した男、である。尤も私は、運動公園に来たものの1秒たりとも運動はしていない。

 ならば、何故運動公園来たのか。理由は単純である。


「先生、大丈夫?」


 彼女に、会いたくなってしまったのだ。

 彼女はよく、この公園で運動をしている。夏場はいつもノースリーブで、汗ばんだ腋を晒しながら体力作りをしている。

 私は、彼女の行動を学習し、その知識を元に此処へやって来た。

 遂ニ、グラスカラ欲ヲ零ス日ガ来タ。


「ちょっ、先生!?」


 私は、彼女の手を掴んだ。細い腕は、軽く力を加えれば折れてしまいそうで、少しばかり不安になった。しかし痛がらない彼女を見ると、私は彼女を引き寄せ、運動公園の茂みの方へ連れ去った。


「来てくれ!」


 にこんなことをするのは、1人の教師として心苦しい。しかし、私は悪くない。悪いのは彼女だ。この私の恋心を揺らした彼女が悪い。


「先生……何するの……?」


 怯えた様子の彼女を見て、私のグラスは粉々に砕けた。

 それからの時間は、私にとって至高の快楽だった。彼女の平らな乳房を、汗ばんだ腋を、小さな唇を、蒸れた足裏を、ショーツ越しの会陰を、私は五感全てで感じた。特に味覚は調子がいいようで、彼女の味がよく分かった。

 幼いながらも、雌の味と香りがした。

 ……名乗り遅れたが、私は普段、小学校にて働いている。公務員などではなく、彼女の居るクラスの担任として。

 きっと、いや、間違いなく、私には重い罰が下るのだろう。身を灼く地獄の業火に包まれ、自死することさえ許されぬ日々に生きるのだろう。

 ぺドフィリアの私は、いつになれば彼女を娶ることができるだろうか。

 あらゆる思考が脳内を駆け巡るが、私はそんな思考さえ放棄し、彼女を穢し続ける。

 いつまでも明るい太陽に、影を齎す為に。

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灼ける 憑弥山イタク @Itaku_Tsukimiyama

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