第12話 バッドエンド
く、くそっ……。
腕と足が動かない。
何度『動け』と命令しても腕と足はピクともしなかった。
動かないどころか、俺が『動け』と命令する度に腕と足から痛みが走る。
異常な痛みだった。
痛すぎてボロボロと涙が溢れ出す。
俺は泣くのが大嫌いだ。
だってカッコ悪いじゃん。けど今は涙を我慢する余裕なんかなかった。
俺、どうなるんだろう……?
佐藤に殺されるのかな……?
嫌だっ、死にたくないっ。
俺はまだしたいことがたくさんあるんだ。
最近買ったゲーム全クリしたいし、優菜ともっとイチャイチャしたいし。
これからなんだよっ、俺の人生はっ。
今が人生の瞬間最大風速マックスのところなのにっ。
くそっ、どうしてこうなった……。どうして俺はこんな目に合ってるんだっ……。
「おい高峰、見てみろよ」
突如、佐藤が声をかけてきた。
俺は奴に目を向ける。
「なっ……」
佐藤を見て、俺は驚きを隠せなかった。
涙が更に溢れ出す。
な、なんだこれっ。なんでこんなことになってんだ……?
「お前の彼女、俺のヤツ一生懸命舐めてるぜ?」
「っ……」
優菜が佐藤のアレを舐めていた。
ギュッと胸が締め付けられる。
辛いっ、シンプルに辛いっ。
俺の優菜がっ……。くそっ、くそっ。
「佐藤!? お前だけは絶対許さねぇぞ!! 殺してやる!! 今殺してやる!!」
殺すっ、あの男を殺してやるっ!!
俺は佐藤を殺すために体を動かそうとする。
だが体は言うことを聞いてくれない。
何度『動けっ!』と命令信号を送っても体は動いてくれなかった。
くそっ、なんで動かないっ!! なんで俺の体は動かないんだっ!!
動けない俺を見て、佐藤はニヤニヤしていた。
なんだその顔はっ!!! 俺のこと舐めやがってぇぇぇ!!! 絶対殺してやるっ!!!
「おい、優菜」
「な、なに……?」
「四つん這いになれ」
「え? な、なんで……?」
「ちっ、早く四つん這いになれ!! 殺されたいのか!?」
「わ、わかったよ……」
佐藤の命令に従い、優菜は四つん這いになる。
佐藤は優菜の後ろに回り込んだ。
奴は優菜の腰を掴み、強引に求めた。
そう、佐藤と優菜は一つになったのだ。
「ちょ、ちょっと何してんの!?」
「何驚いてるんだよ? 嫌なのか?」
「嫌に決まってるでしょ!? アンタみたいなクズとしたくないっ!」
「はいはい、そうかよ」
「きゃっ……ちょ、ちょっと何してんの!? アンタのしてることレイプだよ!? わかってる!?」
優菜の言葉を無視して佐藤は乱暴に身体を動かす。
彼女は「い、痛いっ……痛いよっ」と悲鳴を上げていた。
くそっ!!! クソ!!! クソっ!! クソっ!!
俺の優菜がぁぁ!! 俺の優菜がぁぁぁ!!!
佐藤は体を動かしながら優菜の綺麗な髪を引っ張る。
すると、優菜は「っ!?」と声にもならない悲鳴を上げる。
「か、髪引っ張らないでっ!?」
「黙れ! カス野郎!! 喋りかけんな!」
佐藤は優菜の髪を引っ張り、もう片方の手で彼女のお尻を叩く。
パシンと乾いた音が鳴り響く。
「や、やめて!? お願いだから痛いのやめてっ!!」
「……」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!? 痛いのやだぁぁぁぁ!! 痛いのやだよぉぉぉぉ!! 助けて!! 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
何度も優菜のお尻を叩く。叩きすぎて優菜のお尻は真っ赤に腫れていた。
凄く痛そうだった。
優菜は何度も「やめてぇぇぇぇ!! お願いだからやめてっ!!」と懇願していたが、佐藤はそれを無視して髪を引っ張りながらお尻を叩き続けた。
クソっ!!! 今すぐ優菜を助けたいのに体が動かないっ!!
なんでだっ!! なんで俺の体は動いてくれないんだっ!!
俺は無理矢理体を動かそうとした。その瞬間、全身から激痛が走る。
「っ……」
激痛に頭の中が真っ白になる。
痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ、痛いっ。
ダメだっ、体を動かすと骨折してる箇所から痛みを訴えてくる。
何もできないっ……。
俺は唇を噛みしめるっ。
クソっ!! クソっ!! クソっ!!
「優菜ぁぁ!! そろそろだぁぁ!!」
「そ、外に出してっ!! お願いだから外に出して!?」
「はぁ? そんなの無理です~。誰がお前の言うことなんか聞くか!!」
やっと行為が終わった。佐藤は優菜の中で果てていた。
あ、アイツ……まさか優菜の中に出したのか?
俺だけじゃなく優菜も今の状況に絶望していた。
「う、うそ……? な、中に出したの?」
「あぁ、たくさん出したよ。赤ちゃんできるかもな?」
「っ……ひ、ひどいっ!? 酷すぎる!? どうしてそんな酷いことするの!?」
「は? 何言ってんだよ、お前。先に酷いことしたのはお前だろ!! お前が先に浮気したんだろ!! 被害者ずらすんじゃねぇっ!! このカス野郎がぁぁぁ!!!」
佐藤が優菜の顔面を殴った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? い、痛いっ!! 痛いよ!!」
あ、アイツっ!? 優菜のこと殴りやがったぞっ!?
まさか優菜まで殺すつもりなのか!?
アイツは女の子だぞ? それに、優菜はお前の元カノだぞ? 元カノになんでそんな酷いことできるんだよっ!!
「言っておくが、俺は女でも容赦しないぞ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? い、いたいぃっ!? 痛いのやだぁぁっ!?」
泣き叫ぶ優菜の顔面を佐藤は殴り続ける。
どんどん優菜の美しい顔が歪んでいく。
あんなに美人だったのに、今はブスと呼ばれても仕方ないレベルに成り下がっていた。
アレは本当に優菜なのか? アレが俺の彼女なのか……?
突如、佐藤は殴るのをやめ、床に落ちている金属バッドを拾った。
あ、アイツ、まさか金属バットで優菜を殺す気か!?
や、やめろっ! それだけはやめろっ!!
「今度はこの金属バッドでボコボコにしてやるよ!」
「や、やめて……お願いだからやめてっ……。そんなので攻撃されたらアタシ死んじゃうよっ」
「うん、そうだよ。お前は死ぬんだ」
「い、いやだぁっ……死にたくないっ、死にたくな……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
佐藤は優菜の顔面に金属バッドをフルスイングした。
鼻の形が曲がり、顔の表面は血塗れになっていた。
「ははははははは!!」
佐藤は笑いながら優菜の顔面を金属バットで攻撃する。
何度も攻撃する。
俺が「もうやめてくれっ!!!」と頼んでも佐藤は止めなかった。
本気で優菜を殺す気なんだ。
助けに行きたいのに、体が動かない。
くそっ!!! くそっ!!!
彼女が苦しんでるのに、なんで俺の体は動かないんだっ!!
動けっ!!
頼むから動いてくれっ!!!
金属バットで攻撃されるたびに優菜は悲鳴を上げていた。
だが、今は声すら上げなくなっていた。
さっきまであんなに泣き叫んでいたのに、今は静かだった。
ま、まさか……。
い、いや、けどそんな……。
「お、おい、優菜……? おい、優菜?」
俺が呼びかけても優菜は返事してくれない。
いつもは可愛い声で「どうしたの?」と返事してくれるのに、今は俺のことシカトしてくる。
俺は薄々気づいていた。それでも認めたくなかった。
「おい! 優菜! 優菜!! 返事してくれよ!! なぁ優菜!!」
何度呼びかけても優菜は返事してくれない。
それでも俺は諦めずに声をかけた。
そんな俺に佐藤が現実を突きつけてくる。
「おい、高峰。優菜はもう死んだぞ」
「っ……」
優菜が死んだ? 彼女は死んじゃったのか?
「う、嘘だ……そんなの絶対嘘だっ。優菜は死んでないっ、まだ生きてるはずだ」
「は? 何言ってんだお前? 顔面を金属バットで20回以上は叩きつけたんだぞ? 絶対死んでるに決まってるだろ。バカか、お前は」
「……」
優菜が死んだ。
俺の大切な人が……。
最初は優菜のことが大嫌いだった。
だってコイツずっと俺のこと虐めてきたんだぞ?
好きになれるはずがなかった。
けどセックスしているうちに、どんどんコイツのことが好きになって……。
気づいたら恋人になっていた。
恋人になってから色んな思い出を作った。
アイツ、恋人になってから本当に可愛いんだ。
可愛すぎて食事とか奢ってあげたらめっちゃ喜んでくれるし、プレゼントをあげたら幸せそうな顔を見せてくれた。
逆に、優菜からプレゼントもらったことあるし、毎日お弁当まで用意してくれた。
アイツ、恋人にはめっちゃ優しいんだ。可愛すぎて夜はたくさん求めた。
昼間は素直で可愛いのに、夜は凄く下品だ。
そのギャップが最高なんだ。
これからも優菜とたくさん思い出を作る予定だったのにっ……。
優菜はもう死んだ。泣いてもその結果は変わらない。
どうしてだっ、どうして佐藤はこんな酷いことするんだっ。
意味がわからねぇ……。
「なんでだっ!! なんでこんな酷いことするんだっ!! 優菜は女の子だぞ!! なんで女の子にこんな酷いことすんだよ!?」
「優菜が女の子? はははっ、お前はさっきから何言ってんだ! 優菜みたいなクソビッチは女なんかじゃねぇよ。アイツはただの雌豚だ!!」
「め、雌豚だと……?」
「そうだ! 浮気する奴は女なんかじゃね。セックスのことしか考えられない雌豚なんだよっ!! 実際、優菜はお前のちんぽこが好きすぎて浮気したんだろ? ただの雌豚じゃねぇか!」
「っ……き、貴様ぁぁぁっ!! 殺すっ!! お前だけは絶対に殺すっ!!」
「殺す? そんなの無理に決まってるだろ。今のお前は動くことすらできねぇじゃねぇか。さてっとお前と喋るの飽きたし、そろそろ終わらせるか」
佐藤は床に転がっている金属バットを拾い上げる。
こ、コイツ、まさか……。
「お、お前……俺のことまで殺す気か?」
「当たり前だろ」
「っ……そ、そんなことしても意味ないぞっ!? 絶対後悔するぞ!?」
「後悔なんかするわけねぇだろ。絶対スッキリするはずだ。実際、優菜を殺したときはめっちゃスッキリした。本当に気持ちよかった。大嫌いな奴をボコボコにするのがここまで気持ちいいとは思わなかったよ。どれぐらい気持ちいいか教えてほしいか? うーん、そうだな……射精と同じぐらい? いや、それ以上だ。復讐は射精以上に気持ちいいっ。これはマジだっ」
さっきから何言ってんだコイツは……?
様子が変だぞ?
「俺さ、中学校の頃友達と一緒にパチンコ打ったことがあるんだ。あのときは5万円勝ったよ。あれは最高だった。ラッシュが続いてめっちゃ出玉が出るんだ。あの派手な演出を見るたびに脳汁がドバドバ出たよ。あのとき俺は「パチンコ以上に気持ちいいもんは存在しねぇ」と思ったけど、そんなことなかったわ。復讐の方が何倍も気持ちいいよっ。優菜を殺したとき、パチンコ以上にドバドバと脳汁が出たんだっ。まじで気持ちよかったぁ!! アレだっ!! 俺はあれを求めてた!!」
「……」
「あぁぁ~、またあの快感を味わいたいよっ。もっと脳汁を出したんだっ。きっとお前を殺したらドバドバと脳汁が出るんだろうなぁ。心がスッキリするだろうなぁぁ~。あぁぁぁぁぁ~……もう我慢できないっ、早くお前を殺したいよっ!!」
「っ……く、狂ってるっ。貴様狂ってるぞっ」
「俺が狂ってる? はは、確かにそうだな……。だが俺がソシオパスみたいになったのはお前と優菜のせいだぞ? お前らが俺を狂わせたんだっ。お前が優菜を寝取らなければこんなことにはならなかったんだよっ。全部、お前と優菜が悪いんだっ。俺は何も悪くないっ、俺はただの被害者だ」
「確かにっ……俺がしたことは最低だ。けどお前がやってることは……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
顔面に尋常じゃない痛みが襲ってくる。
なんだこの痛みはっ!! 痛すぎて意識が飛びそうだっ。
再び佐藤は俺の顔面を金属バットで攻撃してくる。何度も攻撃してくる。
あれ? なんだこれ?
痛みがなくなってきたぞ? 感覚が麻痺してきたのかな?
今度は視界がおかしくなったぞ?
さっきまで保健室が見えていたのに、今は何も見えない。
真っ暗だ。
俺、失明したのかな?
俺、ここで死ぬのか?
死んだどうなるんだ?
あの世で優菜に会えるのかな?
そもそも死後の世界って存在すんのか?
あぁぁ……やばいっ。どんどん意識が遠のいていく。
もうすぐ俺の魂は消えて、肉体はただの物質に変わるんだろうな。
俺の思い出も消えちゃうんだろうな。
優菜と作った思い出もどこかに消えるのかな……?
それは嫌だな。
俺、昔の優菜は大嫌いだけど、付き合ってから大好きだったのに。人をここまで好きになったの初めてだったのに……。
優菜のおかげで生きることが楽しくなってきたのに……。
あっ、もうダメだっ。意識を保てない。
ここで終わっちゃうのか。
なんか変な人生だったな。
大好きな彼女に裏切られ、俺の心は壊れしまった 理亜 @ria012345
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