第11話 第6の不思議

 「名前を言ってませんでした…ね?僕の名前は桜楽さくら 秋兎しゅうとです!えっと、その、改めて、この前は助けていただきありがとうございました。おかげでこうやって妹と学園生活を過ごすことができています!」


「お兄ちゃん、固っ苦しいし緊張しすぎ。こんにちは。この前はありがとうございます!私は秋兎の妹の桜楽 春風はるかぜといいます!私たちは兄弟で、どちらも8年A組です!」


「へー、秋兎に春風ちゃんね。覚えとくね!私の名前は蝶乃 蜜奈!2人ともこれからよろしく!あと、敬語はいらないよ!」


「そう?じゃあよろしくね、蜜奈!」


「はい、よろしくお願いします」


「っと、自己紹介が済んだところで…」


 どーうしよっかなぁ、コレら…。掃除するにしても、床は先に2人がやったっぽいけど、棚がなぁ。

 この歴史資料室は8畳くらいと無駄に広いんだよなぁ…。壁周辺にある棚の中を掃除しなきゃいけないんだけど、その中は割れ物ばっかりだし、電気は壊れかけだし、窓は埃で曇りまくりだし、ほんとに酷い有様だ。光がほとんどないのにこれを3人でやらせるって正気か?

 とりあえず棚からやるかぁ…。

 そうして私達3人は掃除に取り掛かった。


「そうだ、2人はどこから来たの?」


 雑巾掛けをしながら私は問う。


「ここからさらーに北にある「寒狗かんくの街」というところから来ました。そこはほんっとに寒くて、水が凍るのは当たり前、なんなら果実だって余裕で凍らせてみせる気温なんですよ」


「よく熱湯をぶち撒いては凍らせて友達とキャッキャしたなぁ…。あの頃は楽しかったけど、遊ぶ気すら起きない年齢になるとただただ辛いだけで、留学と称して逃げてきたんですよね」


「お兄ちゃん、ネガティブすぎ。みんないい人だし、私達の両親だっているじゃんか」


「まあそれもあるから、悪い街ではないけどな。俺は火の適正属性が特に強いから、相当きついんだよなぁ…」


「へー、寒狗の街ねえ。で、秋兎は火属性なんだ?寒さに弱いって言ってるけど、それ適正属性じゃなくて、ただの体質だよ」


「へ?」


「多分授業でやると思うんだけど、魔法は反魔法という技術があってね。その属性、例えば火属性なら冷属性に転換できるっていう技術なんだけど、その反魔法から生み出した魔法は自分の適正属性になってるんだよ。ちょっとややこしいけど、つまり属性によってその真逆の環境に馴染めないなんてことは無いよって事」


「なるほど…」


「おっと、ちょっと手を止めちゃったね。掃除再開しよっか!」


「うん!」


 そっか、自分の故郷の街があるのか。私も前世の紺一族には村があって、全員が人殺しについて研究してたな。

 だけど、なんだかんだ族長の私に優しくしてくれてたし、いい人たちではあったな。

 なんだかんだで遊んでくれたし。

 なんだかんだで笑顔を貰っていた。

 なんだかんだ色んな事も教え合ったな。

 私は死んじゃったけどね。

 それでもなんだかんだ、いい村だったな。

 …みんな無事かな。


「あれ…?」


「え、蜜奈ちゃん?泣いてるの?」


「おかしいな…。なんでだろうね…?」


「蜜奈にも故郷があるのか?」


「まあね…。最後に私、見捨てちゃったんだけどね」


「…」


「…悪い」


 私は涙を拭う。


「ごめんごめん、しけた空気になっちゃったね!手止めた私が言うのもなんだけど、掃除再開しよ



 カランッ


「!」


 私は武器を構える。

 こんな話をしてる中、おもちゃみたいな音が鳴り響いた。響きの中には殺気が混じっていた。

 歴史資料室…。第6の不思議がそうだったかな。


「なんだろ?今の音?」


 第6の不思議、歴史資料室の高鳴る赤べこ。音が鳴ったと同時に攻撃されるという。

 2人ただの学生がいる状況、ちょっとまずいか?


 コロンッ


「!?」


 目の前に、唐突に現れた。1体の赤べこ。


「こんにちわ、」


「おっと、急に喋ってくるんだ」


「そうです。しゃべります、それにしても。すごいねすね、まさか。あのガグロスを。倒すとわ、でもね。私は絶対に。倒せませんよ、」


「な、なんだこいつ!?」


「赤べこが喋って…!?気持ち悪い…!」


「…下がってて」


「きっ。きっきっきっききききっ。気持ち悪いだとぉぉおお??貴様。木っ端微塵のぐちゃぐちゃにしてくれるは!!??!!」


「まぁまぁ、そうピキピキしないで?君の相手は私なんだからさ」


「ほ。ほう、貴様が最初の相手か、いいだろう。第6の不思議。トルペンの力。みせてやろう、」


「いいよ、トルペン。来なよ」


 カランッ


「消え


 ガキィン!!


 私は左斜め後ろからの攻撃を剣で弾く。


「へえ、思ったより威力は高めだね。抜刀からすぐさま防ぎにくい左後ろに来るなんて、いい狙いしてるんじゃない?」


「ふふふ、これからまだまだ続きますよ、」


 カランッ


 また左斜め後ろ!だけど、それもしっかり弾いていく。なんだこれ、瞬間移動か?気がつくと赤べこがそこにあって、攻撃を仕掛けてくる。起動が早すぎるし、錠越のようにもともとある対象と入れ替わっている訳でもなさそうが、空間魔法にしては起動が早すぎる。


「いいよいいよ、全然おーけーだ!もっとどんと来なよ!」


 とは言いつつも、長引いてヘイトが桜楽兄妹に向くのは結構まずい。さっさとケリをつければいいのだが、情報が足りない今、できるだけ長引かせたいのもまた事実。それに、この一瞬でできる瞬間移動の詳細にも興味がある。


「うーん、めんどくさい塩梅!固定するか!」



『空間魔法』 凝固空間の縛鎖ぎょうこくうかんのばくさ



「!?」


「さて、その鎖は空間を凝固して作った。私と同じ瞬間移動魔法なら使えないし、もちろん動くこともできない。さて、その圧倒的に起動が早い瞬間移動と、他の七不思議についてを聞かせてもらうね」


 コロンッ


「おっとまじか」


 気がつけば右斜め後ろに赤べこが瞬間移動していた。そして頭突きのような攻撃も難なく剣で弾く。


「ということは、魔法ではないのかな?」


 カランッ


 またもや左斜め後ろに現れていた。ずっと私の背後をとっては攻撃を仕掛けてくる。瞬発力自体には余裕があるとしても、早めにケリはつけたい。

 それにしても今一瞬、魔力の糸みたいなのが見えたような…?


 カランッ


 また瞬間移動だ。気がつけば左斜め後ろにいた。


「はいはいはい…」


 わかってきたぞ…?やつの瞬間移動の手口が。


 コロンッ


「右斜め後ろぉ!!」


 ガキィン!


「?!」


 やっぱり、予想通りだ!

 首の鳴らし方によって左右で来る攻撃の方向が変わってくる!

 そしてさっき見えた魔力の糸、これは放物線だ!魔法関数のグラフを魔力の糸でそのままコピーアンドペーストして具現化、座標設定を行っているのか!いい応用方法だ!

 そして…


 コロンッ


「ほい右斜め後ろ!」


 カランッ


「左斜め後ろ!」


 設定した座標にバフをかけて、自分自身を複製してるのか!自分自身の全てを代償にし、新たに全く同じ自分を生成、って感じか。


「随分とまあ高度な魔法だけど、見切られたら終わりだね!特に、1発芸しかないあんたは終わりさ!」


「黙れ。終わりだ、」


「終わり?そうだね。もう終わるね。君の死でね。七不思議の情報を君から聞き出そうとしてたんだけど、その口調じゃあ対して頭に入って来ないから決めちゃうね」


「イキるのも大概にし



〈紺の術〉其の十三 来疾



 赤べこを横に一刀両断する。


「私の事イキってるって言いたいんだったら、最低限の実力つけてから上から目線で言ってみろよ」


 トルペンは灰のように崩れ去って無くなる。

 思ったより弱かったな。


「蜜奈…ちゃん、強いんだね」


「ああごめん、怖がらせちゃった?大丈夫、私はただの人間だから!」


「ならいい…んですけど」


「あ、あとこの事は秘密にしておいて欲しいな?私怖がられるの嫌だから、実力は隠してるんだよね」


「そっか」


「うん」


「…それなら、今まで通り接するよ!」


「まあ、強いのは最初っから何となくわかってたしな。命の恩人にビクビクすんのも失礼だしね」


「2人とも…!ありがとう!」


 と、こんな和やかな雰囲気のまま帰ろうとしたが、掃除があるのを思い出し、2時間みっちり隅から隅まで掃除した3人であった。

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その暗殺者は蜜の味 つばーきき @tubaki-flower

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