第48話 ハーミット領の運営状況
イリアがアルベールの力でハーミット家に戻った翌日から、ハーミット家は大きく変化していた。
かつて解雇された古参の家臣たちが続々とハーミット家に戻り、男女問わずに再雇用されていった。
ヴィンスに解雇された者達は優秀な人材ばかりで、老いてもなおバリバリと活躍していた。
中にはまだ比較的若いのに解雇された者もおり、そのタイプはヴィンスに苦言を呈した家臣達だ。
自分に従わない者達を排除し続けた結果何が起きたかと言えば、当然ハーミット家の腐敗である。
「なんだこの出鱈目な帳簿は!?」
「騎士団の資金管理はどうなっていたのだ!?」
「税の使い方が滅茶苦茶ではないか!?」
次々と出て来るハーミット領の問題点。逃げ出した家臣達も大概な不正を働いていたが、何よりもハーミット夫妻の不正が致命的なものばかりだ。
このままでは数年もせずにハーミット領は破綻してしまう。何故そんな事態になっているかと言えば、国王派と呼ばれる貴族達が根本的な問題であった。
自分達の贅沢な暮らしを優先し、平民の生活など気にも留めていないのだ。平民が減れば、他国から適当に奴隷でも連れて来たら良いと平気で考えている。
民ありきではなく、貴族ありきの思想に染まり内政は滅茶苦茶だ。そしてそれはハーミット夫妻も同じであった。
イリアの祖父母は国王派には懐疑的で、厳しい所は有ったが領民を食い物にはしなかった。
ヴィンスがそうなって行ったのは、親への反発心もあったのかも知れない。今となっては知りようもないが。
「先ず税は適正な運用に戻しなさい。帳簿と騎士団は貴方達に任せても?」
「お任せ下さい! 数日中には何とかします」
「ではお任せしますわ」
イリアが目指す未来は、単に国のトップになる事だけではない。大陸の支配者として、繁栄もさせる必要がある。
ただの傲慢で怠惰な王になったのでは意味がない。例え暴君であったとしても、国としての発展は重要な課題だ。
だが先ずは自分の領地からだ。ハーミット領すら発展させられない様では、国など運営出来る筈もない。
だがイリアとて、内政の天才という訳ではない。何よりまだ領主の座を無理やり奪っただけの存在でしかない。
そこに古参達が帰還した事により次々と改善がなされて行く。イリアはアルベールと2人でどうにかするつもりだったが、想定よりも早く解決していった。
もちろんイリアはただ任せたわけではない。何をどうしたか、という報告は全て目を通している。そこから内政という物について学びを得ていった。
イリアは頭脳にも優れており、様々な技術をもってハーミット領に変化を齎していく。特にアルベールから学んだ魔法の知識は非常に高い。
「この魔方陣を畑の近くに描き、定期的に魔力を流せば育ちが良くなります」
「イリア様、こんな知識をどこで得られたのですか?」
「アルに習いましたの」
「は、はぁ」
もう当たり前の様にイリアの側に居るが、当然ながら古参達はアルベールの事を誰も知らなかった。
説明するのが面倒なので、婚約者だとだけイリアは家臣達には伝えていた。アルベールは元々国王をやっていた男だ。
それ相応の気品もあり貴族の常識も理解している。ローブ姿だけは不思議に見えても、他国の貴族だと言われればそうなのかと信じてしまえる。
きっと魔法の技術が進んだ国の出身なのだろうと、エリオット達古参の家臣達は考えていた。
男の方が勝手に婚約者を名乗るなら怪しいが、イリア自身がそうだと言っているのだ。エリオット達にそれを疑う理由もなかった。
そうして数々の新技術、というより今は失われた技術によりハーミット領は瞬く間に発展していった。
将来的に中央都市ファニスを中心に始まる大規模な都市開発は、このハーミット領を参考にして行われる事になる。
「イリア様、騎士達が貧弱過ぎて役に立ちませぬ」
「なるほど。それならば
「本当ですか!?」
「要するに鍛え直せば良いのでしょう?」
職場復帰した古参の騎士から来た相談により、イリア式スパルタ教育が産まれた。アルベールの力により、まとめて魔の森へと放り込む。
そして死にたくなければ戦えと言う実にシンプルな教え。あまりにも力技過ぎるが、自分と言う実例がいるのだから仕方がない。
6歳で魔の森に放り込まれた結果、とんでもない鬼教官が産まれてしまった。文字通りの死地に追い込まれた騎士達は、命がけで抗い続けた。
死に掛けてもアルベールが居るから大丈夫と言う発想の元、魔の森で行われた地獄のブートキャンプにより1ヶ月でハーミット領の騎士団は十分な強さを手に入れた。
その成功体験が、この後に続く王国騎士団テコ入れに繋がる事になる。そんな調子で推し進めた、ハーミット領の領地改善をしていた頃にエリオットがとある報告書を持ち込んだ。
「イリア様、こちらをご覧下さい」
「…………随分とまあ、下らない不正をしているのですね王族達は」
「その様で」
ヴィンス達も加担していた不正の数々が報告書には記載されていた。そのどれもが小悪党と言う他ない内容ばかりで、イリアは鼻で笑うしかなかった。
脱税や違法奴隷に不正行為のもみ消しなど。挙げればキリがないが、国が腐敗していると一目で分かる内容だった。
どうせ王座を争うならばと、それなりの相手を期待していたイリアだったが落胆せざるを得なかった。
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