第30話 大陸会議 中編
イリアが席に着く頃には、殆どの参加者が会議室に揃っていた。それまでは和やかな雰囲気で雑談が交わされていたが、イリアが現れてからは空気が変わった。
室内には大きな円形の机を、各国の代表者達が等間隔を空けて囲んでいる。凡そ地図上の配置になる様な並び方で席が用意されていた。
一番西にあるアニス王国の席と、モーラン共和国の席が左端に来ている。元から王制では無く議会制だったモーランは、既に旧モーラン共和国扱いである。
法整備が整い次第アニス王国の一部として扱われる予定となっていた。以前より会議への参加が決まっていたので、今更呼ばない訳にはいかず特例で出席となった。
今回は周辺国から略奪した、作物の弁済等の話をする為に出席した様なもの。次回からは、もうモーランの席はない。
そんなモーランの席には、新たな議長が座っていた。もちろんアニス王国の傀儡である若い男だ。
イリアを挟んで反対の位置には、オーレル帝国の席がある。そちらも勿論、座っているのは傀儡の若き女帝だ。
「新参の女王が、随分と遅い登場じゃねぇか」
「
「普通は新参者ほど早めに来るんだよ!」
「そうでしたの。貴女は早く来たの? レミア?」
隣に座るオーレル帝国の代表者、レミア・オーレル・マイアーは真っ青な顔でブルブルと首を横に振る。
新たな女帝となったレミアは、骨の髄までイリアの恐ろしさを知っている。自国の近衛兵達が、瞬く間に肉片となるのを見ているからだ。
そんなトラウマを植え付けられたレミアは、イリアに絶対服従を誓っている。そしてなるべくイリアと会わない様にしている。
恐怖心から極力一緒になる時間を削っているのだ。だから当然レミアもギリギリまで会議室には来なかった。1分でも長くイリアと同じ空気を吸いたくないのだ。
「違うみたいですわね。なら私も問題無しと言う事で」
「てめぇ、調子に乗るなよ?」
「何ですあの方? カルシウム不足なのかしら? ねぇレミア?」
位置的に言えば大陸の東側に当たる席で、苛々とイリアに難癖をつけたのは30代半ばに見える精悍な男性だ。
その男は東の大国サーランド王国の国王であり、ベイルと言う名の武闘派の男であった。
イリアが現れるまでは、大陸一番と言われていたサーランド王国。しかし今ではアニス王国の方が上だと言われている事が、ベイルは心底気に入らなかった。
武王と呼ばれていたその功績も、イリアがあっさり塗り替えてしまった事もベイルを苛立たせた。
些かプライドが高い男であったが為に、年若い小娘であるイリアが兎に角気に入らないのだ。そもそもオーレル帝国での話は、ただの嘘だとベイルは考えていた。
「小娘が! 舐めやがって!」
「何を大きな声を出しているのですか、ベイル様?」
「チッ……何でもねぇよ聖女様」
少し遅れて入室して来たのは、会場である聖王国サリアの代表ミアである。未だに実績を疑われているイリアと違い、ミアは世界中で活躍して来た。
その実力を知らぬ者はそう多くはない。ベイルとて実際に見た事まで認めぬ程に愚かな男ではない。
だが内心では、小娘2人が世界を左右している事を快くは思っていない。彼が確かに優秀な王であるのは確かだ。
戦においては自ら前線に立つ武勇に優れた王である。周辺国家との戦では何度も活躍していた。
しかしそれは優秀と言うだけに過ぎない。世界最高峰の力を持つ者には劣る。それが同世代の男性であったなら、ベイルとて渋々認めただろう。
しかしそれがまだまだ年若い女性であった為に、彼は嫉妬心と差別的な意識を拗らせていた。
「さて皆様、お待たせ致しました。全員揃っておりますので、只今より会議を始めさせて頂きます」
聖女であるミアの宣言により、各国の代表者達による大切な会議が始まった。先ず主な議題になったのは魔族に関係する議題だ。
最近大人しい魔族だが、彼らには彼らなりの目的もある。怪しい動きをしていないか、各国から情報を持ち寄って交換する。
当然ながら魔族領と隣接している国が最も出せる情報が多い。アニス王国と旧モーラン共和国、そしてその更に南にある海洋国家ルウィーネから情報が提供される。
今は大人しく目立った動きが無い事が、逆に不気味だと考える者は少なくない。
「やはり一度魔族との会談をすべきではないか?」
「馬鹿を言うな、奴らに話など通じるものか」
「だが休戦を持ち掛けたのは奴らの方だぞ」
「会談の場で暴れられたらどうするのだ」
永きに渡り対立して来た為に、対魔族に関する議題は難航しがちだ。魔族の王ガルドが正式に休戦を提案したのが2年前で、前回の大陸会議より後になる。
それ以降で全ての人族が暮らす国家の、代表者達がこうして話し合うのは初めてになる。それ故に国ごとに意見が分かれてしまい統一出来ない。
そもそも戦争など望まないと考える国、聖女と魔女の力で征服してしまえ主張する国、色々な意見が飛び交い議論は白熱する。
最終的に見兼ねたミアから女神サフィラの意思が告げられ、とりあえず戦争を仕掛けると言う計画はご破産となった。
それで会議が漸く落ち着こうとした時だ、ここぞとばかりにベイルが声を上げた。
「動かねぇ魔族なんかより、野蛮な国があるじゃねぇか。なぁ? そうは思わないか?」
「へぇ」
ベイルの悪意に満ちた視線を受けて、イリアは面白そうに笑った。どう見ても私怨丸出しであったが、その意見自体は一理あったので全員の視線がイリアへと向いた。
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