第21話 イリアとミアの出会い 後編
「それで、
「えっと……その、趣味、とか?」
「私に聞かれても困りますわよ」
ロッジ内に移動したイリア達は、木製のテーブルを挟んで会話を始めた。全員が室内に入ると狭くなるので、護衛騎士達の隊長以外は屋外にて警戒中。
孤独に水と木の実で生活していた頃とは違い、今では紅茶まで用意出来ている。ロッジ内にあった様々な魔導具の使い方を、イリアが理解した恩恵だった。
今テーブルの上にあるポットは、ただの水を紅茶に変化させると言う効果がある。ただしデメリットも存在し、魔の森産特有の豊富な魔素が失われてしまう。
摂取を続ければ強大な力を得られるのだが、何も知らない客人に出すものとして見れば間違いなく正解だろう。
勝手に邪神の力を含んだ紅茶を飲まされて喜ぶ者は居ないだろう。進んで飲むとしたらイリアぐらいだ。
「結局何をしに来たのか良く分かりませんわね?」
「いえその、あの……先ずはお友達から始めるとか、どうでしょう?」
「……友達、ですか」
同世代の友人など居た事が無いイリアには、その関係性があまり理解出来ない。どんなものかは知っているが、自らに同世代の友人が出来る想像などした事が無い。
アルベールが唯一友人とも言える存在だが、年齢どころか種族すら違う複雑な関係性である。
ではイリアの知る同世代の貴族家子息や令嬢となると、かつてイリアに石を投げつけたり小馬鹿にする様な態度を取る者ばかりだった。
復讐する対象ではあっても、仲良くする対象ではない。そもそも仲良くなりたいという気持ちが一切無いのだ。
イリアから見た同世代の者達は、イリアにとってただの敵でしかない。だから今更友達などと言われても困るだけだ。
「必要性を感じた事がありませんわね」
「それは、どうしてですか?」
「……サフィラ様には聞いていませんの?」
「詳しい事は何も」
イリアの問い掛けに、ミアはふるふると頭を左右に揺らす。この世界を管理しているサフィラは、当然イリアの過去も知っている。
何故こんな所に居るのか、何故そんな事になったのか。サフィラは心優しい女神だ、本心で言えばイリアを救いたかった。
しかし神は特定の誰かだけを手助けする訳にもいかないし、そもそも人類に直接的な助力をしてはいけない。あくまで教え導く程度で留めねばならない。
それが神々の掟であり、絶対に破ってはならない決まりだ。創造主から生み出された神では無いアルベールや、掟を守る気がない神であればその限りではないのだが。
「私、6歳の時にこの森に捨てられましたの」
「そんな!?」
「バカな!? 幼子をこんな危険な場所に放置したと言うのか!?」
ミアだけでなく、護衛騎士の隊長もイリアの境遇に驚く。公爵令嬢だと言う事は聞かされていたので、こんな場所に住んでいる理由をミア達は不思議に思った。
それがまさかそんな残酷な理由から、ここに住む様になったとは思ってもいなかった。自ら望んで住んでいるのだとばかり考えていた。
確かに口減らしとして、貧困な家庭が子供を奴隷商に売る事はある。しかし貴族の子供をこんな形で捨てると言うのは、それ程多い話ではない。
直系の後継ぎは貴族にとって最も重要な存在だ。自らの家系を存続させる為には、絶対に必要となる。
廃嫡するにしても、女子であれば修道院に入れるのが普通の対応だった。つまりそれは、イリアの両親が非常識な対応に走る程に我が子と認めたく無かったと言う事になる。
「ですから私は殆ど1人で生きて来ました。今から友人など、欲しいとは思いません」
「ですけど……そんなのって……」
「別に憐れんで頂かなくて結構ですわ。私はこの生き方が、今では気に入っておりますから」
イリアの原動力こそは復讐心であったものの、自らが強くなって行く事に楽しみを感じていた。
やはりアニス王国でも有名な武闘派の家系に生まれただけあり、そう言う所は祖父母にそっくりだった。
もちろんメアリの魂による影響もあるが、どちらかと言えばハーミット家の血の方が要因としては大きい。
産まれる前に祖父母を亡くしているので、そんな事をイリアは知りもしなかったが。そう言った理由から、イリアは今の生き方が気に入っていた。
貴き血とは懸け離れた、愚かな貴族達に囲まれて暮らすよりも余程充実している。それは逃避でもなんでもない、今のイリアが抱いている本心だった。
「ですが! こんな不当な扱いはあんまりです! 今からでもアニス王国に抗議を」
「必要ありませんわ。いつか自分の手で、必ずケリをつけます」
「どうするのですか?」
「決まっていますわ。報復させて頂きます」
16歳にして既に妖艶と言う言葉が似合う少女になっていたイリアが、楽しそうに笑顔を浮かべる。
復讐の時は近付いている。貴族の子供達が成人すると、大人達も集まり成人を祝うパーティーが開かれる。
そこに成人となったイリアが乗り込む。邪魔する者は全て排除し、迫害した者達に全てお返ししてやるのだ。
かつて悪魔の使いだと嘲笑い、罵り石を投げつけた者達に。投げられた石で流した血を、痛みをイリアは今日まで忘れた事はないのだから。
「いけません! 復讐なんてしても、幸せにはなれません!」
「関係ありませんわ。それで私の気が晴れますから」
「そんな事では!?」
「私がどう言う人間かは、これで分かりましたね? それではお引取りを」
綺麗事を並べ立てるミアを睨みつつ、イリアはミア達を追い返した。まだ何か言いたげなミアであったが、強力な風の魔法で強引に魔の森の外へと放り出された。
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