二 身分差
官吏登用制度が大きく変わったのは三十年程前で、歴史はそう古くはない。それまで
官吏において良い役職に就きたいのであれば、血筋や結びつきは必須と言えるが、反対に言えばどれだけの血筋も縁故も、科挙試験に受からねば何の意味も無いという事だ。まあ、例外もあるが――とりあえず、雷堂が職に就く為には科挙試験に受かる必要がある。
とは言え、道は一つでは無い。雷堂の叔母の言葉通りであれば、武官の道――武科挙試験を受けるのも手なのだ。
身体付きを鑑みても、雷堂は武官が向いていると言えるだろう。そもそも、叔母も雷堂の腕を見込んで、そう進言したに過ぎない上に、雷堂自身も武官の方が向いていると実感している。叔母の言葉を苦々しく感じているのが、何よりの証拠だった。まあ、これには叔母には逆らえないと言うだけなのだが。
「それで、受けるのか」
「受ける。今年受かるしかないだろ」
「そうか」
意気込む雷堂に対して、蚩尤は常にあっさりとした態度だった。感情に抑揚が無い。常に冷静と言った様子で、表情どころか口調も言葉も平坦だ。だが、蚩尤がどんな反応を示そうとも、雷堂が気に留める様子は無い。寧ろ、いつも通りと言ったところか。互いに肩を並べて歩き続けていた。雷堂の口にした
二人の前方。視界を埋め尽くすように現れたのは、省都中心に
その敷地を蚩尤は当然のように歩く。城内に一歩踏み入れば、横を過ぎ去る際は誰もが立ち止まり蚩尤に
蚩尤と雷堂は対等のようで、そうではない。
この国には、九つの省がある。その一つが、
蚩尤は丹省
その大半が雷堂と同じ金の瞳を持つ者達だが、雷堂と違って髪色は赤。
そう、金の瞳。これこそが、雷堂が因縁をつけられる理由として最たる所以と言えるだろうか。雷堂、朱家共に、どちらも人のようで、そうでない。彼等は龍人族と呼ばれる一族なのだ。
龍人族とは――普段は人と変わらぬ姿をしているが、その身の内に龍の血を宿し、龍の姿を併せ持つ種族だ。
見た目で彼等を判断するならば、まず金の瞳。その次に髪色だろう。
金、黒、白、赤、青と、
金は、
その名を名乗れないのは、傍系である分家か、それ以外の血筋という事だ。
雷堂の姓は『
『見ろ、また
『
『大人しく軍部に属すれば良いものを。いつまで姜家に甘えているのか』
『次の
冷ややかな目線と侮蔑や嘲笑が城の
朱家に『姜』という血への反意はない。「古い時代に朱家は姜家に跪き、身を捧げて生きてきた」という言い伝えをそのまま体現したかのような姿が今もある。
それが故に古き言葉が呪いとなって、血に染み付いてしまった……とも言えた。
姜家が掲げる旗は
だが、朱家ばかりが姜家に仕えているのではない。時折他の色をした龍人族もいるし、人であれば髪色は殆ど黒である。
だから、色だけで見れば雷堂はそこまで目立つ存在ではなかっただろう。ただ、丹諸侯王子息の友人という立ち位置が故に、目をつけられてしまっただけなのだ。
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