第32話 神のアクセサリー

 あれから2週間が経ち、入学試験の合格者の発表があった。

 もちろん、ルーナも俺も合格していた。

 ルーナに関しては総合で、というか全科目1位だった。

 さすがにルーナに勝てる者はいないようだな。

 俺としては嬉しいが、当のルーナはちょっと不満顔だ。


 「ルフト様が一番でないのは理解できません」


 「いや、ルーナは筆記も魔法も剣術も完璧だったじゃないか。俺は魔法が全く使えないし、剣術も試験官を倒したのはルーナだからね。相応の結果だ」


 「ですが、本当はルフト様の方が遥かに強くて賢くてすごいのに。魔法だって、ルフト様の魔力とお力があればすべてを凌駕できるはずです」


 「まぁ、確かにそうだけど、魔法が使えないのには変わりないからね。それよりも、今日は合格祝いだ。ほら、商店街の方に行こう」


 さっとルーナの手を握ると、若干の不満顔を残しつつも、一緒に歩き出した。


 お昼ぐらいになっていたので、よさそうな店を探してそこで昼食を済ませる。

 フードを被っていないせいか、やはりルーナに視線が集まるな。

 視線は鬱陶しいが、今回は何も起こることなく店を出れた。

 かなり怪しい雰囲気のやつもいたが。

 外に出る度に絡んでくる奴がいるのはどうにかしてほしい。


 「この辺りのお店はあまり見たことがありませんね」


 「あぁ、この辺は他の国から仕入れたものが多いらしいからな」


 俺たちは今、商店街に来ている。

 他国との貿易で輸入してくる商品が多い場所だ。

 王都には各地域だけでなく、他国のものも集まっており、国でも有数の商業都市といえる。


 「わぁ、綺麗ですね」


 ちょうど宝石店の前を通った。

 俺としては宝石なんぞに微塵も興味がないが、アクセサリーを身に着けたルーナにはかなり興味がある。


 「すこし入ってみようか」


 「はい」


――カラン、カラン


 「いらっしゃい、何をお探しですか?」


 乾いた木の音が響き、奥から背の低い女性が出てきた。

 物腰のやわらかい印象があるが、鋭い視線で洞察力が高いと見える。


 「あぁ、これを見せてほしいんだが」


 「はい、どうぞお試しください」


 俺は水色の宝石が施されたネックレスを受け取り、ルーナにつけた。

 風神の知識にあった物で、店に入った時に気になった。


 「わぉ、とてもお似合いですね」


 「ルフト様、どうでしょうか?」


 「. . . . . .」


 言葉を失うとは、こういうことだろうか。


 「ルフト様?」


 「. . . . . . あぁ、悪い。あまりに似合っていてきれいだったから、見惚れてしまったよ。とてもかわいい」


 「あ、ありがとうございます」


 照れている姿はまた、俺の精神にダメージを与える。

 痛くも痒くもないわけだが。

 しばらく眺めていると、どんどんルーナの顔が赤くなっていった。


 「これをもらいたい」


 「はい、まいどありがとうございます」


 ずっと眺めておきたいが、これ以上見ているとルーナも限界そうだったから、ルーナからネックレスを受け取り、会計を済ませた。


 「ルーナ、合格祝いだ」


 「ありがとうございます。あの、もう一度つけていただけますか?」


 「もちろんだ」


 俺はネックレスの宝石が割れない程度に魔力を込めた後、ルーナにつける。

 魔力を込めた宝石は、透明度が増し、ルーナの美貌をさらに引き出していた。


 「ルフト様、これは何を?」


 「俺からのプレゼントだ」


 もちろんルーナも、尋常でない魔力が込められて生まれ変わった宝石に気づく。


 「ありがとうございます。大事にしますね」


 「またお越しください」


 店を出て少し歩くと、ルーナがネックレスを触りながら尋ねてきた。


 「ルフト様、宝石は魔力を込めるとこうなるのですか?」


 「いや、普通の宝石はならない。その宝石は神話の時代にも使われていたもので、魔氷晶まひょうしょうというものだ。それには魔力を込めることで透明度が増す性質があるんだが、かなりの量が必要になるから、普通の人が魔力を込めた所でどうにもならない。売り物になっていて透明度が高いものは、そこの自然に溢れている魔力が多いからだろうし、この性質を知ってる人は少ないと思う」


 「なるほど。あ、ということは、これはそのうち色褪せてしまうのでしょうか?」


 「いや、俺の魔力を込めたから、俺が無事な限りは大丈夫だ。それに、そこにルーナの魔力を込めてくれたら俺にもわかるから、呼びたいときはそこに魔力を込めるといいよ」


 「え?. . . . . . ということは、これでルフト様の状態がわかるということですか?」


 「まぁ、そうだな」


 「ルフト様に伝えることもできるということですか?」


 「あぁ、その通りだ」


 「. . . . . . 嬉しいです。ずっと大事にします」


 ルーナは大事そうに両手で宝石を包み、本当に嬉しそうな笑みを浮かべる。

 そして俺に寄りかかってきた。


 「ありがとうございます。ルフト様. . . . .」


 「ルーナが喜んでくれてよかったよ」


 俺はルーナの頭を撫でながら考える。


 ずっとこの笑顔を見ていたい。

 この可愛さを絶やしたくない。

 俺が・・守っていきたい。


 幸運なことに、ルーナは俺を好いてくれている。

 ルーナの気持ちが変わらなければ、ずっと側で見守ることができるだろう。

 俺がルーナを幸せにすることができるのだ。

 ルーナの幸せを邪魔する者は、その一切を排除する。

 妥協や容赦はしない。


 俺は改めて、自分の心にそう誓った。

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心の壊れた死神は一人のために世界を潰す メチル @24methyl

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