第31話 王都の観光

 入学試験が終わり、結果が発表されるまでは、王都にてルーナと観光しようと思う。

 王都は今まで訪れたどの街よりも広く栄えているため、ルーナと歩く場所は尽きそうにない。

 たまに面倒な奴が出てくるが、大通りを歩けば基本大丈夫だろう。


 「ルーナ、どこに行こうか?」


 「まだ行っていない北側を見てみたいです」


 「わかった。確か北側は商店街があったはずだ。王都だから様々なものが揃ってるだろうし、試験が終わったお祝いに何か買おうか」


 「まだ入学できるか決まったわけじゃありませんけどね」


 「大丈夫だ。ルーナはおそらく貴族よりも成績が高い。魔法だってあそこにいた男爵家とは比べ物にならないだろう」


 「あ、ありがとうございます。しかし、どうしてあそこに貴族の方がいたのでしょうか?」


 「あの性格からして、問題でも起こしたんじゃないか? ここに来る時にも貴族に会ったが、身分が高ければ何をしても許される、と勘違いしている奴が多いのかもしれないな」


 さっき俺たちが受けたのは平民枠の試験。

 貴族はそれよりも前に試験を受け、すでに結果が出ていると聞く。

 それにもかかわらず、あそこに貴族がいるとしたら、何か問題を起こして試験に落ち、また受けに来たというところだろう。


 「なるほど、学園に入ると大変そうですね」


 「大丈夫だ。俺が絶対に守るから」


 「あ、ありがとうございます」


 照れているルーナを見て、俺の心臓は速くなる。

 俺は全ての魔法、物理攻撃を防げるだろうが、ルーナからの精神的ダメージは一切防げないようだ。


 「なあなあ、嬢ちゃん、いいだろぉ~」


 北の方へ歩いていると、大通りの端で聞いたことのある声が聞こえた。

 あまり思い出したくはないが、酒に酔ってルーナに手を出そうとした愚か者だ。


 「ルフト様」


 「あぁ、わかってるよ」


 声のする方へ歩いて行くと、水色の髪をした少女が絡まれていた。

 服装からして、平民枠の受験生だろうか。


 「あの、私行かないといけないんです。離してください」


 どうやら、周りの大人は見て見ぬふりをするようだ。

 まぁ、俺だってルーナに言われなければそうしていただろうが。


 「ちょっとぐらいだって~。いいじゃ. . . . . .」


 男が俺を見つけると、固まった。


 「ヒェ~~!」


 変な声を上げて逃げて行った。

 これでもう大丈夫だろう。


 「あ、あの」


 そう思ってそこから離れようとしたが、少女に話しかけられてしまった。

 正直、ルーナとの時間が減るだけなので面倒だ。


 「何か?」


 「あ、えっと、助けていただいて、ありがとうございます!」


 「気にしなくていい」


 「いえ、助けていただいたのですから、何かお礼を」


 「必要ない」


 「え、でも」


 「俺には必要ないんだ。お礼になるとしたら、そうだな、このまま変な奴に絡まれないよう真っすぐ家に帰ることだな」


 少女はかなり渋っていたようだが、俺の方をじっと見て、何かを決心したように頷いた。


 「. . . . . . わかりました。それではこのまま帰ります。このご恩はいつか必ず返しますので!」


 「そうか。じゃあルーナ、行こうか」


 「はい」


 ルーナはその少女を見ていたが、俺が声をかけるとすぐに歩き出した。

 少々いつもより早歩き気味だ。

 何かあったのだろうか?



 「ルーナ、どうしたんだ?」


 その少女の姿が見えなくなった頃に、ルーナの速足の理由を尋ねた。


 「いえ、何もありませんよ?」


 「ならいいんだが、さっきの水色髪の子か?」


 「いえ、別に何かあったわけではありません。そういえば、あのお酒に酔っていた人ですが、良くこの辺りに出るのでしょうか?」


 確かに、前見たときもこの辺だったし、常習犯なのだろう。


 「おそらくな」


 「学園に通うときは気を付けないといけませんね」


 「大丈夫だ。ルーナに指一本触れさせる気はないよ。俺意外にルーナを触らせない」


 「あ、う、嬉しいです」


 照れながらも俺に体を寄せ、手ではなく腕を抱えてきた。

 周りからの視線が増えたように思う。

 王都ではフードを被らないことにしたから、ルーナに見惚れる者が多くなっている。

 特に男からの視線が不愉快だ。

 俺への敵意はいいが、ルーナに対する視線が気持ち悪い。


 「ルーナ、やはりフードを被った方がいいんじゃないか?」


 「大丈夫です。私は周りの視線なんて気にしませんから。それに. . . . . .」


 ルーナは背伸びをして、そっと耳元で囁いた。


 「こうしてれば、恋人に見えるでしょう?」


――ゾワッ


 「ルフト様、周りが止まってしまいましたよ」


 「あ、あぁ、悪い」


 途端に鉛のようだった空気が軽くなり、周りの者は呼吸を取り戻す。

 つい感情が暴走してしまったようだ。

 ルーナからの口撃には気を付けないと、周りに被害が行くかもしれないな。

 もちろん、ルーナの口撃は大歓迎なのだが。


 「ルフト様は、私とそういう関係に思われるのは嫌ですか?」


 「そんなわけないだろう。俺もそう見られたい」


 俺の言葉を聞いて、どこか安心したように照れた笑みを浮かべる。

 しかし先ほどから、言動が少し大胆になっている。

 やはり何かあったのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る