第30話 とある先生の話
ようやく長かった平民枠の入学試験が終わり、今度は入学者の審査に追われていた。
しかし、入学できる者は毎年少なく、ただ目を通す作業になっていたのだが. . . . . .
「10503、10504」
今年に限っては、ある2つの番号を探すのに必死になっていた。
その2つとは、受験申込のときに来た化け物2人組だ。
私は筆記試験の担当で、あの会場にはいなかった。
平民枠だから倍率は恐ろしく高いはずだが、あの化け物にそんなものが通用するだろうか。
仮に受かっていたならば、このことを伝えたほうがいいだろう。
というか、私は今年1年を教えることになっている。
運が悪ければ担任になるかもしれないのだ。
「あ、あった」
ついに見つけた。
私が今目を通しているのは、筆記試験の結果だ。
2つの回答用紙を眺める。
「っ、はあ!?」
「バーンズ先生、どうされました?」
「あ、は、はい。これを見てください」
2つの答案を分担して作業していた先生に見せる。
「これは. . . . . .」
そこには、あり得ない回答があった。
筆記試験では毎年、有名な貴族や王族、なんなら研究職の者でも満点を取るのは難しい問題が各教科の最後に出題される。
それを完璧なまでに回答されていたのだ。
まさかの全教科満点。
つまりこの国でもトップクラスの頭脳ということだ。
しかもそれが2人も。
「これは逸材が入ってきましたね」
「は、はは。そうですね」
私としては心穏やかでいられない。
こんなの今年の、いや過去を含めた受験生で最も優秀な成績になるだろう。
しかしあの化け物は頭が本領ではないのだ。
あの時のことを思い出すと、今でも寒気がする。
あの殺気を放てるというのだから、あれの戦闘力は世界でもトップレベルのはず。
筆記で前代未聞の高得点な上、あの力を持っているだなんて、誰がどうやっても主席入学だ。
今の所、私は特待生のクラスを担当することになっている。
つまり、あの2人の担当はほぼ確実というわけだ。
はぁ、これから大変なことになるな。
少なくとも、私のせいでこの学園に被害を出してはならない。
貴族たちには悪いが、あれを最優先で考えるしかないだろう。
「はぁ」
しばらくため息が続いた。
♢ ♢ ♢
「それでは、平民枠の最終審査を行う。すでに資料で合格者は絞ったが、何か伝えておくべきことはあるか? まずは筆記試験のほうから」
「はい、受験番号10503のルーナ・ライトと10504のルフト・ハルマールという受験生についてです」
「ほうほう、これは学園創設以来の天才か」
「はい、この結果だけでも特待生クラスに入る価値はあるでしょう。しかし、私はこの2人が危険だと思います」
「何かあったのか?」
「はい。受験申込の日のことなのですが、私は町であの2人を見ました。あの2人に酔った男が絡んだときに、ルフトという受験生から恐ろしい殺気が放たれたのです。私は遠くにいたにも関わらず、息ができなくなりました」
「バーンズ先生がそうなるということは、特殊な魔法か何かでしょうか?」
別の筆記試験担当の先生が質問する。
「いえ、単なるプレッシャーです。魔法の兆候はありませんでした」
私の言葉に一同が思案顔になる。
私はこれでもそれなりに魔法の実力がある。
5年ほど前、戦場で成果を挙げ、貴族からは別名で呼ばれることもあるくらいだ。
私が魔力を知覚できなかったのだから、魔法を使った可能性は低い。
「私もその2人は危険だと思います」
私の言葉に賛同したのは、剣術の試験担当の先生だった。
「私はその2人と実際に剣を交えましたが、まったく勝てる気がしませんでしたね。かなり本気でやったんですが、一歩も動かず、片手で剣を持って受け止められました。ルーナという受験生には、剣をスッパリと斬られましたよ」
「? 受験生には木剣を渡していたはずだが?」
「ですから木剣で斬られたんですよ。ルフトという受験生はほとんど力を見せませんでしたが、帰り際に男爵家のあの問題児が絡んできて、謎の力でねじ伏せてました」
「ほう、既にこの学園の先生よりも強いか」
「いえ、この学園だけじゃなく、この国でもトップレベルだと思いますよ。私が見たときも、魔法の兆候はありませんでしたし、本当に得体が知れない。おそらくですが、素手で全員殺せるのでしょう」
「ほう、確かにそれは危険ともいえるが、試験の際の行動で問題が無かったんだろう?」
「えぇ、全く」
「筆記試験でも目立ったことはしてませんでしたね」
今の報告の仕方で、2人を止めることが出来ないというのはわかったはずだ。
しかし、あの化け物2人の筆記試験を担当した先生も問題はないと言った。
「ならば生徒として迎えるべきだろう。ここにはアークという優秀なものもいるわけだし、彼にとってもいいライバルになるだろう」
「確かに、彼らが切磋琢磨すれば、さらに活躍する人材になるでしょう」
「アークは今年で卒業でしたが、これで安心ですな」
「他の生徒にも良い影響を与えるでしょう」
口々に賛同していく先生だが、リゼットは内心穏やかではいられなかった。
確かにアークの力もずば抜けており、学園の先生方も一部を除いてほとんどに勝てるだろう。
しかし、あの2人は違う。
そもそもの次元が違うのだ。
あの時感じた恐怖は今でもはっきりと覚えている。
あれは、生き物としての格が違った。
同じ生き物ではない。
アークは人間としてとても強いが、あれは正真正銘の化け物の部類だろう。
あんなのを迎え入れて、学園が大丈夫なのかと不安になる。
だが、この雰囲気で言い出せることでもなかった。
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