第29話 入学試験 3
試験官に呼ばれたので、木剣を持って真ん中のエリアに上がる。
先ほどの戦いからしても、この試験官はそれなりに強いようだが、ルーナには到底及ばない。
本部の近くにいる魔物とも一対一でなければ苦しいだろう。
周りの生徒は言うまでもなく、剣を握ったことがあるのか怪しい者もいた。
冒険者が有名だから、多少は剣を使えてもいいはずなんだが。
「ルールは簡単です。このエリアの場外に出れば模擬戦は終了。たとえ一撃も当てられなくても、評価はされるので、全力で来てください。以上です。それでは、始め!」
いきなり開始の合図を言われて戸惑う一同。
そこに、試験官の木剣が容赦なく入ってきた。
「うわぁっ」
「いたっ」
すぐに場外へと出されていく。
それを見た者たちは、急いで試験官に斬りかかろうとするが、当てる間もなく場外へ飛ばされた。
先ほどから、この試験官は作業のようにこれをこなしている。
まぁ、受験生が多いから、そこそこのレベルを見極める気はないのだろう。
そもそも平民ならば、圧倒的な才能が無ければここには入れない。
この試験官ぐらいは止められないといけないようだ。
と、エリアのぎりぎりに立って見物をしていると、あっという間に俺たちだけになった。
試験官は俺の姿を見ると、すぐにこちらへ切り込んできた。
――ガキン
木と木がぶつかるにしては少々高すぎる音が響く。
「何っ」
一瞬驚いた試験官だが、すぐに顔を正してさらに強い攻撃をしてきた。
――ガキンッ
――ガキンッ
――ガキンッ
何度も試験官は攻撃を仕掛け、その都度力を乗せていくが、少年はその場を微動だにせず、片手で剣を持って受け止めている。
その崩れそうにない防御を前に、試験官はすこし汗をかいた。
この少年は合格で良いのだが、後ろに控えている少女の強さを見れていないのだ。
このままでは、少女まで合格となってしまう。
見た目的に、剣を振れる力があるか怪しい。
いや、そもそもこれほど強い少年がいたならば、剣を振る必要が無いだろう。
もしかすると、どこかの貴族だったのかもしれない。
「ルフト様、試験官の方が私の力を測れず焦っていますよ」
「ん? そうなのか。しかし、この試験官はかなり強めに仕掛けてくるぞ」
「それぐらいなら、私だけでも大丈夫です。絶対に怪我なんてしませんから」
かなり強めに打ってくる試験官からルーナを守っていると、ルーナ自身からそんなことを言われた。
なるほど、だからこの試験官はルーナを狙っていたのか。
「わかった。じゃあ、ちょっと遠くで見てるよ」
「はい。ありがとうございます」
俺は試験官の剣を弾き、エリア内の対角の場所まで移動する。
よろけた試験官は、俺が一瞬でここまで移動したことにかなり驚いていたが、戦場でそんなよそ見は命取りとなる。
もちろん、ルーナはそこに切り込みはしない。
一撃で終わるからだ。
「俺の隙を狙わなかったのは減点だ」
試験官はそう言いながら、ルーナに斬りかかった。
――ガキンッ
試験官の剣がルーナの剣によってきれいに止められる。
「何だと!」
一度距離をとって間合いから外れた。
俺の時と同じだったからか、さっきと同じ手は使わないようだ。
「はぁっ」
――スパッ
「は?」
間合いから外れた試験官にルーナが斬りかかると、試験官の木剣がきれいに切断された。
およそ木の剣では出しえない音を立てて。
「こ、降参だ」
「ありがとうございました」
ルーナは優雅に一礼して、俺の元へ微笑みながら歩いてきた。
「さすがだな、ルーナ。完勝じゃないか」
俺が頭を撫でながら褒めると、頬を赤くしつつも笑顔になる。
「ありがとうございます。ですが、ルフト様の方がすごかったです」
「いや、ルーナの方がすごいぞ。さっきの魔法と言い、全員ルーナに釘付けだ」
ルーナの目線を促すと、そこには試験官を含めてルーナへの憧れの視線と、俺には試験官以外の憎悪の視線があった。
俺は別にいいが、ルーナがかなり目立ってしまったため、さっさと帰ることにする。
ちなみにこの試験の発表は2週間後であり、検問所の至る所に張り出される仕組みだ。
番号だけだから、外に向けて見せても大丈夫らしい。
そもそも、これだけの人数が一斉に発表を見に来たら、ここら辺が大変なことになるだろう。
「帰ろうか、ルーナ」
「はい」
手を繋いだ瞬間、俺への視線が倍増した。
しかしそれを無視して出口へと歩いて行くと、目の前に少し高級そうな服を着た男子が立っていた。
「君、ルーナというようだね。僕が雇ってあげよう。僕は男爵家の嫡男なんだ。ほら、こっちに来るんだ」
「何か用か?」
「お前にはしゃべってない。ほら、行くよ」
初対面にも関わらずそう言って、強引にルーナの腕をとろうとしてので、そいつの周りの空気を操り、捻り上げた。
「――っ」
何か叫んでいるようだが、周りの空気を止めているので一切聞こえない。
「ルフト様、試験官の方も見ていますし、早く帰りましょう」
「そうだな」
こんな奴に使っている時間がもったいない。
――バタッ
俺は腕を捻り上げた奴に殺気を放ち、気絶させた。
後から追いかけられても困るからだ。
「じゃあ、王都を観光でもしようか」
「はい」
騒然としている周りを気にせず、人気のないところまで歩いてくると、王都の中心の方へ飛んだ。
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