第36話 新装備を手に入れたぞ!
その日以来、俺たちは少しだけ距離感が近くなった。いや、俺が一歩踏み込んだのだろう。この人間不信の俺が他人に心を許すとは思わなかった。人間は変わるものなんだなとしみじみ思う。
「……ニ……ユニ!」
「うん? 聞いてる聞いてる」
「嘘! 聞いてない!」
「聞いてるよ。それ、美味しいよな」
「やっぱり聞いてない!」
WHAT? 違った? ウィーディの話の八割は食い物関係だから当たると思ったんだけどなー。それで、何の話だっけ?
「新しい装備の話!」
「あー、もうそろそろか」
恐竜二匹から作った装備が完成したという知らせが届いたのだ。それまではロデオから巻き上げた装備を使っていたのだが、ようやく仮の装備から解放されるらしい。
「いつ取りに行くの?」
「この朝飯食べたら行くか。予定もないし」
「ん!」
ウィーディが元気よく頷いてテーブルの上のサラダやパンに手を付ける。塩やスパイスを知った女将の腕はみるみる上達しているようで、この世界では舌の肥えている俺でも食べられるレベルになっていた。
「……なくなる前に俺も食うか」
勢いよく食べ進めるウィーディが俺の分も食べてしまう前に、俺もパンを手に取った。
その後、俺たちは指定された店に向かう。そこはこの世界に来て初日に門前払いをされた鍛冶屋だった。そんな因縁のある鍛冶屋に、遠慮なく足を踏み入れる。
「誰だテメエらは! 勝手に入ってくんじゃねぇ!」
「客だ頑固ジジイ! ギルドから連絡入ってねぇのか! アァ!?」
入店するなりブチギレられた俺たち。しかしこの俺、前回の訪問で対策はできている。なので、俺も相手のレベルに合わせてブチギレた。まさか若造にキレられるとは思っていなかった鍛冶屋のジジイは鳩に豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「確認するが、ギルドから装備を作る依頼を受けてるのはこの店だよな?」
「あ、あぁ……」
「合っていたならよかった。俺たちが受取人だ。早く現物寄越せや」
老人を労われって? 知ったことか。出会い頭に怒鳴るようなジジイに払う敬意はない。言葉遣いも相応しいものに変えてやったのさ。あー、相手のレベルに合わせる俺って優しい~。
「本当にお前らか? 随分と若いが……」
「何だ? その首へし折って証明してやろうか?」
ウィーディが。と思ったが、ウィーディはそんなことしないな。優しいから。しかし、いろいろ勉強を教えているが、やっぱりこういう時は喋らない。子犬なのは相変わらずか。
「いやいやいやいや、それは必要ない! ギルドから二人の容姿を聞いていたのをすっかり忘れていた! すぐに準備するから待っておれ!」
「……元気なジジイだなぁ」
青年もかくやという逃げ足で店の奥に消えていったジジイ。すぐに弟子たちに装備を持たせて戻ってきた。それを試着するためウィーディは奥の部屋に連れて行かれ、俺はさっさとその場で着替える。
なに驚いてんだよ。俺は男だぞ。勘違いしてんじゃねーよ。HENTAIどもがよぉ。
「んー、悪くない着心地だ。奮発した甲斐があった」
俺の装備は深い藍色をした魔法使いっぽい防具だ。金属を極力使わず、運動性向上を念頭に考えられた防具である。金属を使うと防御力は上がるが重くなるので後衛の俺には不向きと考えたらこうなった。イイ感じにリアルとファンタジーを上手に融合した逸品である。若干、ジジイのセンスがいいことにムカつくのが難点だ。
「要望通り、防御系よりも補助系のエンチャントをつけているが……本当によかったのか?」
「死ぬときは何やっても死ぬさ。なら、快適な方がいいだろ?」
「珍しい考え方だ。だが、面白い仕事ができたことには感謝する。関わった連中もそう言っておった」
生存第一を考えるなら防御系を選ぶのが普通だ。でも俺一回死んでるしな。そもそも死ぬことにそこまで頓着してない。あと、やっぱり文化人なので快適さは捨てられない。
「それからご注文のローブだ。聞いた容姿と好きに作っていいって話だったから作るには作ったが……」
「が?」
言葉を濁すジジイ。そんな風に言われると逆に気になるじゃんYO。早く見せてくれ。
「ちょっと想定外があってな……」
「素材が足りなかったか?」
「いや、そうじゃないが……」
「なら早く渡してくれ」
「……着ればわかるか」
そうして渋るジジイからローブを受け取った。そのローブは何となくあのティラノサウルスモドキを連想させる色合いだが、明るいオレンジ色なのが俺の不安を煽る。そんな不安を押し殺しながら着たローブの着心地はよく、快適そのものだ。しかし……。
「最後にフードを被れば……」
「着ぐるみじゃねーか!」
そう、フードの部分がデフォルメされたティラノサウルスモドキの顔になっており、その口の部分から俺の顔が覗いている。「どういう発想でこうなった!?」とジジイに詰め寄りたい気分だ。というか詰め寄った。
「どういう発想でこうなった!?」
「酒飲んでたら興が乗ってな……」
「酒飲んで仕事してんじゃねーよ!」
「わははは! そうだな!」
「笑い事じゃねー!」
「その格好なら怖くないな!」
悪びれた様子もなく豪快に笑うジジイ。襟首を掴んだ俺のことなど意に介していないようだ。
「ユニ、お待たせ」
そんなガヤガヤと騒がしくなっていたところに、清流のように澄んだ声が響いた。
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神に手違いで殺された上に異世界にほっぽり出されたんですけど!? 気晴 @Kibarashi
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