第35話 雨降ってなんとやら
「ロデオは頭がいい。正義の味方ごっこだけを出来れば至福の時を過ごせるが、実態はそうじゃないとすぐに気がつく」
時間は少し捲き戻り、気絶したロデオたちを解放した後、俺たちは金目の物をパクゲフンゲフン、迷惑料をいただいて宿に戻った。自室でウィーディがロデオたちを解放した理由を知りたがったので種明かしをしているところだ。
「一般市民の平穏を守るには、ロデオたちがこれまで通り裏社会を牛耳るしかない。もしロデオが裏社会を捨てれば混乱が生じるからだ」
「うん、あいつが言ってた。でもそれじゃ悪いことを止めさせられてない」
「だからいいんだよ」
ウィーディが首を傾げるその姿、とてもKAWAIIと思います。ハナマルあげちゃう!
「いいか? ロデオたちは悪行をすると物凄い不快感に襲われる。善行で幸福を感じる存在が悪行に手を染めなければならない状況こそ、アイツらにとって一番の罰になる」
「……そうかな?」
「一度や二度なら耐えられる。だが、これから死ぬまでずっとだ。しかも、表向きは善行をしていたのに、裏で悪行三昧をしていたと知られたら? そう、皆は石を投げるだろう。裏でも表でも守られていることを知らずに。正義の味方にとってこれが一番の罰になる」
「んー……」
しばらく唸っていたウィーディだが、ベッドに倒れこんだ。考えるのを諦めたらしい。
「ユニがそう言うなら、信じる」
「自分を信じろよ……」
いわゆる尊厳破壊という奴だ。ま、ロデオたちに尊厳なんてないけど。暴れ牛が正真正銘の畜生になっただけでも面白くはあるかな? いやー、でも仕事したなー。疲れちまったぜ。
「……」
「……」
無言の空間が気まずい。ウィーディはベッドに伏せて足をバタバタとしているだけで感情はわからないが、少なくとも俺は気まずくてしょうがない。何故なら、俺が天誅をしている時の発言や雰囲気など、ウィーディが気にしそうな要素は多くあると思うのだ。だが、それらについてウィーディは何も聞いてこない。それが怖い。
あー、ダメダメ! ナヨナヨしない! こういう時は当たって砕けろだ! 直接聞け! 時間が経てば経つほど聞きづらくなるぞ! ふぅー……よし!
「な、なあ、ウィーディ?」
「んー?」
「疑問とか、ないのか?」
「なんの?」
「俺がロデオに言ったこととか、あの時の雰囲気? とか?」
「んー……」
ウィーディが起き上がり、テーブルを挟んで対面に戻ってきた。そして、じっと俺を見つめる。
え? え? なに? ちょっとだいぶ恥ずかしいんですケド……。何か言ってよぉ……。
「……ユニが『知ったことではない』って言った時、ちょっと驚いた」
「やっぱり……」
ですよねー……。失望されたかも。……ははっ、何気にしてんだよ。出会って十日も経ってない相手に本気になりすぎだろ。俺なんかにウィーディはもったいない。
「でも、ユニは助けてくれたから。赤の他人のわたしを」
「……それは、成り行きで……」
あれは好奇心を抑えきれなかった挙句、見つかって仕方なくって感じだからなぁ。俺の意思で助けたって感じではない。
しかし、ウィーディは俺の意見を真っ向から否定した。
「わたしにとってユニが助けてくれたのは事実だよ」
「……」
「ユニが何て言っても、ユニがわたしを助けてくれたの」
過程がどうだとか、俺の考えはどうだとか、そんなものはウィーディに関係ないらしい。ウィーディにとって、見ず知らずの俺が命懸けで助けてくれたという事実がなにより大事な出来事だということだ。
随分と嬉しいこと言ってくれるじゃない。おじさん嬉しすぎて泣いちゃうよ……。
「でも意外。ユニってそういうこと気にするんだ」
「心外だな。俺って意外と繊細なんだよ?」
「ほんと? それなら嫌われてないかとか気にしてるの?」
「うん」
「わたしはユニと一緒にいたいよ?」
わぁ……。やばい。涙腺崩壊しそう。あ、ごめん。崩壊したわ。
「な、何で泣くの!?」
「嬉しくて、つい……」
俺氏、散々な目にあってきて捻くれまくってるから、逆にストレートな好意に弱い。滅法弱い。世間一般の人はこれが普通の世界なんだろ? 羨ましいなぁ。
「今回だってユニはわたしのやりたいことをやってくれた。ユニならロデオたちを殺す事だってできたのに」
「あれは……」
「そういうところから優しいが溢れてる。それに、あの時のユニ格好良かった」
「それは忘れてくれ」
「忘れないよ。いつものユニとは違ったユニだったけど、あれもユニだから」
俺がゾーンに入るとあんな感じになってしまう。たぶん、振り切ったテンションが一周回って、ああいう仮面を被らないと暴走してしまうんだと思う。一人だと全く気にしていなかったけど、他人に見られるとすごい羞恥心が湧いて出てくる。
「どんなユニでもユニだから。わたしはユニの優しさを知ってるし、もっと他のユニを見たい。でも、どんなユニでも一緒にいたい」
……告白かな? 青春だねぇ。俺だったら恥ずかしさがオーバーフローして爆発する自信がある。無知だからこそ純粋な気持ちを言葉にできるのだろう。これが若さか……。
俺の思考が逸れ始める。ウィーディの言葉を正面から受け止める勇気がないのだ。それでも真剣に考えねばならない。途切れた思考をかき集め、途切れ途切れの想いを紡ぐ。
「あー、えっと……俺も、ウィーディなら……その、なんだ……。い、一緒にいたいかなって……」
あああああああああああああ!!!!!!!! 俺は何を言ってるんだ!? 恥ずかしい過ぎるっ!!!!! 恥ずか死ぬ!!!!! うぎゃああああああああ!!!!!
ウィーディを直視できなくなった俺は目を逸らす。
「ん!」
その視界の外で、ウィーディはとても嬉しそうに笑っていた。
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