第37話 言いたいこと知ってること
「爺ちゃん、ただいまー」
「シキにエリン、帰ったか。その様子だと無事に終わったようじゃの」
「うーん、最善ではなかったけど、その手前くらいの結果だったかな」
孫と娘の帰還に出迎えたロナンドが相好を崩している。
皆でリビングの椅子に座り、飲み慣れた紅茶で喉を潤す。
最善は何も疑われずにエンフィールド家の存続、及びシキへの当主変更が認められることだった。
さすがにそうはならなかったが、御前試合で精霊の力を披露し〈雷霆〉と引き分け、王女派の後ろ盾を得たことにより、目的自体は達成できたといえる。
「勝手に王女派に入ったけどまずかったかな」
「いや、第一王女を助けた時点でその流れからは逃れられん。中立だったウォルト侯爵家が新たに加わったのなら、第二王子派を飛び越して第一王子派と並ぶか最大の派閥になったじゃろうて」
「おお、さすが爺ちゃん。派閥規模まで正確に把握してるんだね」
「ふぉっふぉ、シキは褒めるのが上手いのう」
孫に褒められ更にご機嫌になったロナンドがシキを抱きしめて頬ずりする。
もしゃもしゃの白髭がくすぐったい。
「これでも男爵家の当主だからな。王国の最低限の情勢は理解しておかんとのう。ちなみにシキよ、何故王女は第一王女と呼ばれているかわかるか?」
「幼い妹がいるからだよね」
イルミナージェ王女には非公表の妹がいる。
このアトルランと呼ばれる異世界は、シキの知る現代日本と比べれば医療レベルが遥かに低く、出産は母子共に命がけだ。
出産は無事に終えたとしても、赤ん坊のうちは免疫力も弱いため病気で命を落とすことも多い。
なので体がある程度丈夫になるまでは家族として含めず、五歳の誕生日で大々的に祝うというのが慣習になっている。
医療の代わりに魔術が発達しているので、王族ともなれば不治の病でもなければまず命を落とすことはない。
なので全体の慣習に従いつつも第一王女を名乗り、第一ということは第二の王女がいるのだと知らしめるのが王家としての慣習になっていた。
「なんじゃ知っておったか」
「尚、第二王女の名前はラシールです」
「いつのまに調べたんだ……」
ドヤ顔で答えるオルティエを、名前までは知らなかったシキが見上げた。
リファのドローンで諜報活動は続けていたので、その中で得た情報なのだろう。
シキが第二王女の存在を知っていたのは第一王女イルミナージェとの茶会の時に、王族の慣習について聞いたからだ。
だが正式には非公開なので、名前までは教えてもらっていなかった。
これは迂闊に名前を言ったらなぜ知っているのかと問題になるやつである。
現在のオルティエは姿も声も表示状態なので、ロナンドもエリンもしかと聞いてしまい、苦笑いを浮かべていた。
「言いたいことは言っていいって言ったけどさ」
「マスターを含めた御三方であれば、我々が集めた情報を有効に活用して頂けると信じています」
「ぐぬぬ」
日頃からスプリガンたちには言いたいことは言っていいとシキは伝えてる。
できるだけ主従ではなく対等な関係でいたかったからだ。
だから言いたくないことは言わなくていいとも言ってある。
もちろんお互いの関係にヒビが入るような隠し事はだめだが。
第二王女の名前は知らない方が無用なトラブルに巻き込まれなくて済むが、逆に知っていればオルティエの言う通り有効利用できる可能性もある。
……あるか? 単に有能アピールしたかっただけではとシキは思ったが、それならそれでこちらに遠慮していないということか。
むしろ嬉しくなったので気にしないことにした。
「王家の情報といえば、王弟の存在はご存知でしょうか」
「あ、聞いたことあるかも。国王様には有能な弟がいて、右腕として活躍していたんだけど、有能過ぎるから派閥の旗印にされて国王様と対立。最終的に流刑になったとか。でもこれタブーなのよね」
「さすがお継母様、お詳しいですね。その流刑されたという王弟ですが、実は王位継承権を剥奪されたうえで国王の相談役として王都で軟禁生活を送っています」
「ええ……オルティエ、さすがにそれ以上やばい情報は知りたく……」
「王弟の名前はコンスタンティンといいます」
「ぶふぉっ」
「ちょっとシキ、大丈夫?」
シキが急に紅茶を噴出したので、エリンが慌てて背中をさする。
「ご、ごめん母様。ちょっとむせただけだよ」
「むう、それでは少し重要度の低い情報をお伝えしましょう。マスターに結婚を申し込んだドロシー・アリアン伯爵令嬢ですが……」
『リファ、聞こえていますか』
『なぁに? 聞こえてるよ』
『王弟コンスタンティンの過去を洗いなさい』
『いいけどなんで?』
『マスターが王弟の名前を聞いた時、バイタイルに異常が見られたわ。王弟の存在は王族の醜聞としてタブー視されていて、当時話題にしただけで憲兵に捕らえられると噂になり、今では存在も名前も国民から忘れ去られた。なのにマスターは王弟の名前に聞き覚えがあるようだった。偶然知った可能性もゼロじゃないけど、
『それなら私たちも知らないほうがいいんじゃない? にぃにに嫌われたくないんだけど』
『調査結果次第だけど、
『知りたいに決まってる……じゃあ調べてみるから、ある程度情報が集まったら報告する。にぃにに嫌われるようなことしたら、許さないんだからね』
『するわけないじゃない。私たちはマスターのために存在しているのよ』
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