第36話 かわいいアセンブル

『フェリばっかりずるいー』


 そんな呑気な声と同時に真っ白な機体が姿を現した。

 これまで見てきたスプリガンと比べると、丸みを帯びたフォルムをしている。


 何故ならそういうパーツを選ばされたからなのだが。

 フェリデアの真上から垂直に落下してきたその機体が、左腕装備のを山崩しに突き刺す。


『どーん』


 スプリガンの腕と同じくらいの太さの杭が山崩しの鱗に食い込み、装填されている薬莢が爆発すると勢いよく撃ち出された。

 砲撃したような轟音と共に山崩しの胴体が震えた次の瞬間、杭によって貫かれた周囲の鱗と肉が爆ぜる。


『ぴょーん』


 白い機体はすぐに山崩しを蹴って上空へと離脱。

 爆ぜた肉片と体液は、近くにいたフェリデアへもろに降り注いだ。


『ちょっとエル! ふざけんじゃないよ! 折角躱してたのに食らっちまったじゃないか』


『さっさと逃げないからだよー』


 フェリデアに怒鳴られても、〈SG-064 エル・レプリ〉は気にした様子もない。

 元々は標準的な人型をしていたスプリガンだったが、エルのでシキは機体の大幅な改造を強いられた。


 まず頭部や胸部、腕部に脚部は性能度外視で、丸みを帯びたデザインのパーツに変更。

 脚部も一番丸いやつを頼むと言われたので、装甲の形が最も丸かった重量逆関節二脚を選択した。

 武装についても、


『4連装ミサイルかわいくない、ロケットランチャーかわいい。プラズマブレードかわいくない、パイルバンカーかわいい』


 といった感じに、実際に試着してみてエルの気に入ったものが選ばれる。

 こちらもやっぱり選択基準は形状の丸さだった。

 最後に機体カラーを白に変更して、見た目より遥かに凶悪な武装をした機体が完成する。


 エル以外の機体も改造は可能だ。

 パーツや武装にはいくつかの系統があり、シアニスが装備しているメタリアAKX160といった型番入りのミリタリーなもの、アリエの荷電粒子収束射出装置ラプソディのようなSFチックなもの、フェリデアのターミナス・クローといった比較的シンプルな名前のものとバラエティに富んでいる。


 ちなみにエルのパイルバンカーの正式名称はRabbit holeだ。

 説明文フレーバーテキストによると逸脱する、後戻りできないといった意味があるらしい。

 きっと食らった相手が物理的に逸脱して、後戻りできなくなるってことなのだろう。


 フェリデアの武器系統に目を向けると、マチェット、トンファー、青龍刀といったものが並んでいる。

 何故わざわざロボにこれらを持たせるんだ? とシキは気になって仕方がないが、オルティエに聞いても望んだ答えは返ってこないだろう。

 武装自体の説明は喜んでしてくれるが、ゲームデザインは認識の範囲外だからだ。


 エルの一撃によって、遂に山崩しの胴体が千切れる。

 体の制御を失った尻尾側の胴体だが、その巨大に残った生命力で千切れる以前と変わらずに暴れ続けた。

 だがそれも時間の問題だろう。


 先ほどから聞こえていた地響きのような咆哮はどんどん大きくなると、山頂から噴火するかのようにして山崩しの頭部が姿を現した。

 ぱっくりと割れた顎に鋭い牙が並び、爬虫類の目がぎょろりとフェリデアとエルを睨みつけた。


「おお、顔は竜っぽいね。ブレスとか吐くのかな」


『過去17回の戦闘において、そのような攻撃は認められません。また小型情報端末リーコンによるスキャンでも、体内に攻撃へ転用できる燃焼器官の存在は確認できませんでした』


「ブレスは吐かないけど、牙に猛毒があるわ。あと山崩しは体液とは別に全身に瘴気を纏っていて、討伐した後は死体からその瘴気が漏れて周囲の自然を破壊して、何年も元に戻らなくさせてしまうの。国中の冒険者や騎士団を集めて、沢山の犠牲を出してようやく倒せるくらいなのに、土地まで穢してしまうんだから闇の眷属というのは恐ろしいのよ」


「えっ、どうしようオルティエ。倒したら環境汚染されちゃうって」


『問題ありません。マスター』


 自信たっぷりに胸を張るオルティエに困惑を隠せないシキであったが、そうこうしているうちに決着がつこうとしていた。


『はいどーん。どーん』


 跳躍後ブースターを吹かして滞空していたエルの右肩、左肩両方に装備したロケットランチャーが交互に火を噴く。

 照準エイム通り二発の弾頭が山崩しの側頭部と顎の付け根に着弾し、派手に吹き飛ばした。


『おらあああ! トドメ!』


 頭部を半分失い顎が抉れ、口が開いたままになっているところへ、フェリデアが突っ込んでくる。

 瞬間加速クイックブーストで飛びあがりターミナス・クロー、ではなく両足を揃えてドロップキックを放った。


「ええ……」


 しかもブースターの推力を横方向に切り替え、機体をドリルのように高速回転させていた。

 山崩しの閉じることができなくなった口から侵入すると、上顎と脳味噌を貫き後頭部から飛び出す。


 山崩しは断末魔の悲鳴を上げる暇すらなかった。

 頭部を失っても胴体は暫く暴れていたが、やがて大地に横たわり動かなくなると、その死骸が透けるようにして消える。


「あ、そうか。スプリガンが倒すと死体は消失してCRに変換されるんだっけか」


『はい。飛び散った体液による被害までは抑えられませんが、死骸の腐敗等による汚染は発生しません』


 価値のある魔獣の素材は残したいが、山崩しのような害のあるものはあえてスプリガンで倒すことで掃除することが可能であった。

 跡形もなく消える山崩しを眺めていて、シキはふと恐ろしい事実に気が付く。


 もしスプリガンたちが人を殺したら、証拠は一切残らず……。

 もちろん彼女たちにそんなことさせるつもりはないし、万が一にもそうならないようコントロールする必要がある。 


 内心で決意を新たにしているシキの様子を、オルティエがじっと見つめていた。

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