第4話 歓喜する人工知能

「このスピーカーアイコンをオンにした状態で喋ればいいのか。それでどんな指示を出せばいい?」


『日本語で魔獣への攻撃を命令してください。あとは各々が自らの判断で対処します』


『ん、わかった』


 シキの発した日本語に複数の反応があった。

 イヤホンを付けてもいないのに、不思議と耳元から音声が聞こえてくる。


『あれ、今知らない声がしなかった?』


『ぼちぼちマスターが変わるってオルティエが言ってたろ』


『あたらしいごしゅじんー』


『てか今日本語だったような?』


『『『えっ!?』』』


『えーっと、今日からマスターになったシキです。宜しくお願いします。とりあえずシアニスの近くに魔獣がいるから……ぐおっ、耳が』


 つんざくような歓声に慌ててイヤホンを取ろうと耳を触るシキだが、当然そんなものは付いていない。

 脳を揺らす騒音に悶えるが、すぐにオルティエがチャットボリュームを絞ってくれたのでなんとか助かった。


「ねえ俺の鼓膜は無事?」


『聴神経へ直接繋いだ通信ですから無傷ですよ』


「それはそれで脳へのダメージが心配。それにしても凄い喜びようだね」


『当然ですよ!初代マスター以来の、実に332年ぶりの日本語を扱えるマスターなのですから。皆マスターとのコミュニケーションに飢えているのです。もちろん私も!』


「あーなるほど」


 興奮して詰め寄ってたオルティエの顔を、シキはまじまじと見つめる。

 癖のない真っ直ぐな銀髪は太陽の光を浴びて輝いていた。


 ダイヤモンドのように煌めく瞳の上には長い睫毛まつげと柳眉が並ぶ。

 鼻筋は真っすぐ通り、小振りだがぷっくりとした唇は瑞々しい。

 肌も透き通るように白く、シミどころか皺ひとつない。


「すごく出来の良い立体映像だね? ちゃんと光の加減も反映されてるし」


『っ、しっかりと実体もありますよ。といっても空気中の分子で造形し投影した代理構成体、という設定なので純粋な人間ではありませんが。さ、触ってみます?』


「設定……いやどこを触らせるつもりなのかと。はい握手」


 何故か頬を赤らめて豊かな胸を反らすオルティエに呆れつつ、シキは彼女の手を取る。


「ふむ、確かに触れる。ってそれどころじゃなかった」


『そ、そうですね。改めて攻撃指示をお願い致します』


『シアニス、敵が近付いて―――ぐおお』


 シキの指示を遮るように銃声が鳴り響いた。

 再びの轟音に耳を押さえてうずくまる。


『サウンドエフェクトボリュームを調整しました』


「ねえ俺の脳味噌は無事? てかいっそのことマスターボリュームを絞ってくれ……」


『新しいご主人様!敵をやっつけましたー!』


 銃声が止むと、少女の興奮して上擦った声で報告があった。

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