第3話 男爵家のお仕事

 シキの祖父ロナンドは、レドーク王国の東端に位置するエンフィールド領の領主である。

 ロナンドの長男ハロルドは子供の頃に病死し、長女のエリンにも跡取りとなる子供がいないため、エリンが養子にしたシキがエンフィールド男爵家を継ぐことになった。


 エンフィールド家には代々国防という重要な任務がある。

 レドーク王国の東には人類未踏の樹海が広がっていて、狂暴な魔獣が無数に生息していた。

 エンフィールド家はレドーク王国建国当時から、代々受け継がれてきた精霊の加護で魔獣の侵入を防ぎ、国防を担ってきた。


「色々教えようと思ったのじゃが、儂はいらんようじゃのう」


「いやいや、これまでどうやって魔獣と戦ってきたか教えてよ、じいちゃん」


 しょんぼりするロナンドをシキが励ます。


「そ、そうか? それじゃあ説明するとだな」


 孫にせがまれてうきうきと話始める祖父の説明をまとめるとこうだ。


・エンフィールド家は当代の領主から次代の領主へ精霊の加護を引き継いでいる

・精霊たちの姿は受け継いだ領主にしか見えない

・精霊の力は魔獣の討伐、ひいては国防のためだけに使うこと

・常に樹海に精霊を配置し、細かい指示が必要な場合は精霊語の呪文と空中に現れる魔導書を使う

・この精霊は通常の精霊魔術とは完全に独立した存在で、少なくともロナンドには通常の精霊魔術の才能は無かった


「エンフィールド家独自の特別な精霊だということは理解したよ。代々国防を担ってきたことは分かったけど本来の役目は違いますよね? オルティエさん」


『私どものことはどうぞ呼び捨てにしてください。口調も命令口調で構いません。マイマスター』


「む、善処はするけど……。しかしどう考えても日本の、しかも未来のネトゲが実体化しているとしか思えないんだけど。ジャンルはSFかな」


 オルティエは軍隊の将校が着ていそうな、泥濁カーキ色の軍服姿だった。

 ズボンではなくスカートと黒タイツを穿いているので、キャリアウーマンのようでもある。


「どうしてオルティエたちがファンタジーなこの世界にいるの?」


『申し訳ありません。システム外の情報を開示する権限が私にはありません』


 マスターの期待に答えられず、オルティエの柳眉が垂れ下がった。


『ですがこれまでのマスター情報を開示することはできます。初代マスターの名前は附和蓮介で、二代目マスターがアダムス・エンフィールドです』


「初代は日本人? 知らない名前だけど」


 その最初の日本人が精霊としてBreak off Onlineのシステムをこの世界に落とし込んだのだろうか。

 目的は不明だが、同じ日本人の記憶を持つ自分もこのアトルランという世界にいるくらいだ。


 他の日本人がいてもおかしくはないか、とシキは考える。

 それにオルティエは知らないではなく、開示できないと言った。

 そしてヒントとなる初代マスターの情報を提供してくれたので、可能な範囲で協力してくれると思っていいだろう。


「その辺は追々として……早速マップに魔獣の反応があるっぽいけど、どうしたらいいの?じいちゃん」


「それなら赤く光る点を指で触って……」


『あのう、それでしたら是非音声で指示して頂けないでしょうか。きっと、いえ絶対皆が喜びますので』

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