第5話 332年分の貯金

 シキの視界に広がる拡張画面には〈SG-068 シアニス・エルプス〉が映っている。

 その姿を一言で説明するなら人型のロボットだ。


 鈍色の装甲に覆われ、右腕に突撃銃アサルトライフルを持ち、左腕には小型の追加装甲バックラーが取り付けてある。

 全長は周囲の木々よりやや低いくらいなので、10メートルくらいだろうか。


 シアニスから少し離れた場所には、魔獣だったものが転がっている。

 猪に似た巨大な魔獣は、全身を穴だらけにして血の海に沈んでいた。

 突撃銃で蜂の巣にされたのだ。


 シキが突撃銃に意識を向けると〈メタリア AKX160〉という武器名と共に説明が表示された。


「えーっとなになに、〈メタリア AKX160〉はグレン・メタリア社が製造したスプリガン専用アサルトライフルである。空虚重量は302kg、弾丸は33.5×215mm弾を使用……って、ミリオタじゃないから詳しくは分からないけど、相当でかい弾なのでは」


『〈メタリア AKX160〉はスプリガンの銃兵器としては標準装備となります。ですが対SGF―――スプリガンフォートと呼ばれる巨大非汎用要塞に対抗する場合は、最低でも63.5×495mm弾を使用する必要があり……』


「あ、はい」


 何やら補足説明を始めたオルティエはとりあえず聞き流して、シキは拡張画面に広がる光景を眺める。


「ふうむ、こうやって魔獣を倒して国境を守ってきたのか。というかこの映像は誰が撮ってるんだ?」


『シアニスからリーコンという小型情報端末を射出散布し、各ポイントに配置しています。これにより広域スキャンが可能になり、映像の無遅延通信だけでなく、周辺地形及び攻撃対象の解析も可能となり……』


 再び熱く語りだしたオルティエは放置して、シキはリーコンとやらによる映像視点を切り替えてみる。

 1カメ、2カメ、3カメといった感じで多方向からシアニスを観察していると、そのシアニスがカメラに顔を向けて手を振ってきた。

 それと同時に先ほど聞こえた少女の声が脳内に響く。


『ご主人様!次の命令をください!森の奥に進んで魔獣をやっつけますか?』


『えっ、いやちょっと待ってくれ』


「じいちゃん、シアニスが森の奥に進んで魔獣を倒すか? って聞いてきたんだけどどうしよう……あ、改めて説明すると、シアニスってのは森の中央あたりに配置していある精霊の名前ね」


 それまで静観していたロナンドに相談すると、シキの祖父は驚きながら自身の長く伸びた白い顎髭をしごいた。


「なんと、あの精霊はそのような名前だったのか。森の奥にということじゃが、他の精霊との隊列を崩してはならん。隙間から魔獣が領地内へ侵入したらまずいからのう」


『なるほど。というわけで隊列に穴が開くから、森の奥に進まないでくれ。その場で待機してくれ』


『くうーん、わかりました。あ、でもブーストを強化してくれれば隊列にすぐ戻れますよ』


『ブーストを強化?』


『各機体性能の強化は〈ガレージ〉メニュー内から実行可能です。〈兵装強化〉から〈ブースト〉を選択してください。CRクレジットを消費して最大で5段階まで強化することができます』


『CR ……ってこれか。いわゆるお金かな。ん? 桁がカンストしてるんだけどバグってたりしない?』


 メインメニューの右上にあるCR欄を見ると、9,999,999,999CRとなっていた。 


『魔獣の討伐等によってCRを獲得しますが、CRは332年間未使用でしたので獲得可能な最大額まで貯まっており、バグではありません』


『ええ……』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月7日 07:00

精霊仕い 忌野希和 @last_breath

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ