最終話

 昨日、千都さんは帰ってこなかった。


 今夜、千都さんは甘い香水をつけて帰ってくる。


 以前は嫌いだったあの甘い香水をつけて。


 帰ってきたという報告を受けて、私はパタパタと速足で廊下をかけた。



「おかえりなさい…!」


「ただいま」



 そして帰ってきた千都さんに抱きしめられて足が止まった。



「危ねぇから走るなって…」


「あの、あのね!」



 持っていた手帳を千都さんに見せる。



「ほんとうにいるんだって!」


「まだ信じてなかったのか」


「それは…だって…」


「母子手帳もらってきたのか?」



 こくりとうなずけば、千都さんは私を背後から抱きしめながら部屋へと向かう。



「だからって走るなよ。ゆっくり話も聞くし、焦んなって」


「ごめんなさい」


「もう一人の体じゃねぇんだぞ」



 その言葉にまた嬉しくなった。


 私のお腹には子供がいる。


 だいすきな千都さんとのこどもがいるんだ。



「あのね千都さん」


「なんだ?」


「もうこの香り、嫌いじゃないよ」


「そうか」



 これは千都さんが一生懸命働いてきたって証拠だから。


 だからもう嫌いじゃない。



「彼女さんには今度いつ会うんですか?」


「彼女って言い方やめろって。つーかもう会わねぇよ」


「え?」


「何があっても俺が結愛を守るからな」


「っ……」


「俺の女は結愛だけだ」



 そう言いながら、千都さんは私の唇にキスを落とした。


 こんな未来が待ってるなんて思いもしなかった。


 こんな幸せな出来事があるなんて思いもしなかった。



 私の旦那様は若頭。



 危険な仕事も多いから、無事を祈って彼の帰りを待っている。


 甘い香水をまとってきた日も、さわやかないつもの彼らしい香水をまとってる日も、


 私はここで、この家で、大好きな千都さんの帰りを待っている。




 ーEndー

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わたしの旦那様は若頭 透乃 ずい @zui-roze

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