幼馴染が呪いでサキュバスになったので、『必要なこと』だからえっちなことをします

笹塔五郎

第1話 『仕事』の一つ

「ごめん、こんなこと頼めるのは、君しかいなくて……」


 そう言いながら、端正な顔立ちをした少女は頬を朱色に染めた。

 普段は騎士の装いに身を包んだ彼女は、男女問わずに人気と聞く。

 実際、剣を握る姿に見惚れてしまうのはよく分かる。

 けれど、目の前にいるのは――そんな騎士としての鎧は脱ぎ捨て、大きめの胸が露わになっている。

 白のインナーがぴっちりとしているからか、余計に強調しているかのようだ。

 後ろで結んで止めている金色の髪も、解けば美しい長髪が露わになる。

 ――そこにいるのは、間違いなく可憐な美少女だ。

 ベッドの上で、そんな姿で待ち構える彼女に対するのは、黒を基調としたシスターの装いに身を包んだ少女。

 装いだけではなく、彼女は紛れもなく聖職者である。

 シスターの少女は努めて冷静に、口を開く。


「心配しなくて大丈夫です。これも私の『仕事』の一つですから」


 そう言って、あくまで仕事であることを強調した。

 だから気にしなくていい――すると、騎士の少女の表情が少し曇ったように見えた。

 いや、気のせいだろう。

 だって、二人は女同士――それに、これからすることはシスターの少女の言う通り、『仕事』なのだから。

 騎士の少女の頬に手を触れて、シスターの少女は小さく息を吐き出す。


「では、始めますね」

「……うん」


 互いに目を瞑り――口づけを交わした。

 そして、シスターの少女が流し込むのは『魔力』だ。


「ん……っ」


 小さく、身体を震わせながら、騎士の少女が艶めかしい声を漏らす。

 口づけと共に魔力を流し込まれる感覚というのは――曰く、人によっては気持ちのいいものらしい。 

 だから、こうして声を漏らしてしまうことも仕方のないことだ。


(冷静に、冷静に――これは、仕事だから)


 それ以上に、シスターの少女は自らに言い聞かせるように心の中で呟く。

 今、騎士の少女にとって『必要なこと』だから、口づけをしている。

 あくまで、仕事で必要だから。

 ――そこに、彼女に対する『好意』があってはならない。

 たとえ抱いていたとしても、女同士など関係なく、ずっと以前から好きな幼馴染だったとしても、だ。

 ほんの少しだけ、舌の先が少しぶつかったところで、口づけを終えた。


「ぁ……」


 ほんの少しだけ名残惜しそうな声が、耳に届いた気がする。

 互いの口元から唾液が糸を引いて、それを指で拭った。

 ――やや気まずい雰囲気の中で、シスターの少女は優しげな微笑みを浮かべて言う。


「はい、今日の処置はこれでお終いです。体調の方はいかがですか?」

「うん、さっきよりはいい感じがするよ」

「それはよかったです。――いつでも、必要であれば処置を致しますから」

「ありがとう、助かるよ」


 そんなやり取りを交わしながら、騎士の少女は再び鎧に身を包む。

 ――動きやすいように軽装ではあるが、そうしてまた騎士の姿に戻ると、やはりかっこよく見えるものだ。


(さっきまで、私と口づけをして……顔を赤くしていた癖に)


 ――シスターにあるまじきことを考えながら、小さく首を横に振った。

 そんなこと、考えること自体が邪なのだと、自らの言い聞かせながら。

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幼馴染が呪いでサキュバスになったので、『必要なこと』だからえっちなことをします 笹塔五郎 @sasacibe

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