陰謀論とそれを信じるマインド。

@SBTmoya

第1話 人に言うことを聞かせる方法

朝、どういう流れでそうなったのか忘れたけど陰謀論についての話になった。


ありふれた、「〇〇という組織が世界を裏で牛耳っていてそれに対抗する△△という組織がある」という話だ。


なんでそんな話があるのか、ということより、

それを信じる人のマインドに興味がある という話をしたと思う。


突き詰めて考えていくうちに、二つの事を思い出した。

一つは、

とあるゲームの悪役が言った台詞だ。


「人間の心を操るなんて簡単だ。『そうしなければ大変な事になるぞ』と思わせればいいのさ」


この台詞で思い出したもう一つのことが、

まだ幼かった時分(とても幼かった時分)、仲間内に少し賢いガキ大将的なのがいて、私は反応が面白いからなのか その手のイタズラによく引っかかっていた。

今でも覚えてるが

「雨露焼け沼の呪い」だ。


「お前、今朝 あのお地蔵さんの前で挨拶しなかったろ。

 あーあもう終わりだ。 雨露焼け沼(うろやけぬま)の呪いがかかった」


今思えば、呪いはコイツのこの一言から始まったようなもんだ。

他の仲間も一斉に

「雨露焼け沼の呪いだ」「雨露焼け沼の呪いだ」と祭り状態で。


呪いを解かないと 良からぬ事が起こるのだそうだ。


確かに田舎だった実家の近くには、なんて呼ばれてるかよくわからない沼(もはや沼であったかすら怪しいが)があり、

通学路には お地蔵さんがあった。


私がこういうののターゲットになったもう一つの理由は、

私は他所から引っ越してきた身で、その仲間内の中では比較的新参者だったからだ。


「俺たちいつも雨露焼け沼の呪いにかからないようにお地蔵さんに挨拶してるのに、お前いつもしないから」


幼児の演技なんて ママゴトレベルかもしれない。

実際今思い返せばほとんどのやつは半笑いだった。

だけどそれでも 5人に一人くらいはいるのだ名優が……。


「大変なことがおこるぞ……」


幼かった私でも まさかそんな事は起こるまいとわかっていながら、

彼の演技と、エキストラの物量に押し切られ、

あと 「雨露焼け沼」という言葉の なんともいえない負の力に圧倒されてしまい、

万が一があったら……?と想像してしまったのだ。

結局、自分の想像力がいつも首をしめる。


「どうすればその呪いは解ける?」


向こうが指定してきた呪いの解き方は以下の通りだ。

・呪いにかかったことを 親に話さない。

・お地蔵さんの前で必ず手を合わせる。


最初はこんなもんだった。

素直な私は 呪いを解きたい一心で忠実にそれをこなした。

私が忠実にそれをこなしたところで、


解呪の法はエスカレートしていった。

・〇〇時までに ●●山(近所の山だ。)の頂上に登る。

・そこの川の水を飲む。

・○○さん(近所の怖いおじさん)は悪の末裔なので 彼の家にピンポンダッシュをしてくる

・草が子供の腰くらいまで伸びてる一帯の土地のどこかに(ムカデも出る。蛇も出たと思う。)、呪いを解く宝石があるがあるから探してくる。


その時すでに、私が彼らの完全なコントロール下にあったんだろう。

寝ても覚めても雨露焼け沼で、幼く貴重な私の時間は ありもしない呪いを解くための努力に使われていた。

いくらやっても呪が解けるかわからなくて神社で大声で泣いたら、流石に次の日から皆何も言わなくなった。


そのようにして雨露焼け沼の呪い騒動は 解けた というより風化してったのだが、

今思えば本当に これが一昔前の田舎の街でよかった。


現代の都会に生まれてて、これと同じことされていたらもっと大変な目に合わされていたかもしれない。

「建物の屋上から飛び降りろ」と言われたら、あの時の時分なら多分やってた。多分。


あのガキ大将の賢かった部分は、

雨露焼け沼の呪いについて具体的な事は有耶無耶にしていた事だ。


いついつまでに何をしないと ○○が起こる

というのを何一つ言わず、漠然とした呪いの内容は私の想像力に任せたのだ。



あれから少しは大きくなった時分、

あの時の呪いはイタズラだったんだろう。と反省することができるくらいには成長した時分だが、やっぱり頭にあの言葉は残っていた。


「雨露焼け沼」


あれはどこからきた言葉だったんだろう?

答えは 偶然読んだ漫画に書いてあった。

聞き覚えのあるフレーズが出てきたのだ。


「 覇極流超奥義 宇呂惔瀦(うろやけぬま)とは一体なんだ!?」


「そんなものはない。宇呂惔瀦を逆さから読んでみろ」


「何!?宇呂惔瀦・・・ウロヤケヌマ・・・・!!!!?」


今思えばこれが 長年私にかかっていた雨露焼沼の呪いが解けた瞬間だ。


この話はここで終わるが、誤解なきように。陰謀論を信じる人のことをマヌケヤロウと言いたい訳ではないですよ。

それを本気で信じて、こんな辛い世の中の一種の清涼剤になるなら、それは効果のあるものだと思う。

ただし、他人に迷惑をかけなければね。

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