エピローグ

 


 先生の連載が載った雑誌は、僕の地域には発売日より少しだけ遅れてやってきた。僕は書店に行って、その雑誌を買いに行った。予約をしているから、売り切れの心配はしなくていい。うちの事情を知っているアルバイトのお兄さんは、もうファンと言っていいじゃないかとからかう。それをうるせぇと退けて、僕は支払いをした。


 買った雑誌を隠すように鞄に入れて、急いで家に帰る。僕の部屋に入ったら、雑誌の目次を見てから連載のページを開く。小説の内容はいつものように突然な導入から、僕の作った『ボネ』の話が書かれている。



 作家先生が食べた『ボネ』は、イタリアに住む友人の部屋を貸していた大家さんが作ってくれたそうだ。なかなか外に出ない作家先生が心配だ。何とか気持ちが晴れないか。その気持ちで、甘味なら万国で喜ばれるだろう、と作ってくれたようだ。そのころの先生にとって、それはとてもとても嬉しくて、励みになったらしい。


 先生が食べた方は、僕が作ったものに比べてもっと手作り感が強かったそう。それでも、先生は僕の作った「ボネ」をとても気に入ってくれたようだ。「また食べてみたいものだ」と書かれた一文に、じわりと心が温かくなった。



 一人でひっそりとガッツポーズをしていると、タイミングよく母が僕を呼びに来た。


「露甘先生が呼んでるよ」


 またか、と思いながら僕はすぐ行くと返事した。今度はもっと難しくないものを頼まれますように、と願って。

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真純のイタリアンプリン事変 野鴨 なえこ @nae-ko087

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