第8話
作家先生に声を掛けると、彼女は何やら行き詰っているようだった。
「先生が言ってたチョコレート味のイタリアンプリン、作りましたけど。いります?」
その言葉に、先生は大きく二度ほど瞬きをした。不思議そうに思っている顔つきだが、甘いものを欲していたのだろう。
「わざわざ作ってくれたのか!すまないな」
と、いつものように上機嫌になった。
プリンを取りに行きながら、心臓はばくばくしている。今回の出来は驚く程良いぞ、今度こそ驚かせて腰を抜かしてやる、と心の中で呟く。
冷蔵庫から丸い型に入ったプリンを取り出して、お皿に盛りつける。こっちも焼いて作るプリンだから、ちょっと固めの質感をしている。てっぺんには緩く泡立てた生クリームと、粗く砕いたマカロンを乗せる。僕の分も同じように盛り付けて、お盆の上に載せる。一緒に母が淹れてくれたコーヒーも持って行き、片付けてもらった机の上に置く。
作家先生の顔をちらっと覗く。先生の目は輝いている。
「どうぞ召し上がれ」
そう言うと、先生はいただきますと言ってプリンを口に運んだ。何回か咀嚼し、飲み込んで、一口コーヒーを飲む。しばらく黙り込んでから、目を閉じて数回頷いた。
そのあと、にやりと笑って僕に向かってサムズアップをした。
「やるじゃないか、真純君」
嬉しかったが、まだ気は抜けなかった。一昨日みたいに、また「これは違う」と言われないだろうか、と不安だったから。
それを見抜かれたのか、作家先生は笑いながら僕の肩を叩いた。
「完璧に、とはいかないが、かなり忠実に再現されているよ。固めで、濃厚で、チョコレートとコーヒの中に杏仁豆腐のような不思議な風味がある。私が食べたのはこれに似たものだ」
少し放心した後、僕は安心して畳の上に寝転がった。そして、弱々しく「やったぁ」ということしかできなかった。作家先生は笑いながら、デジタルカメラを取り出した。そして、まだ食べていない僕の方のプリンの写真を撮り始めた。
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