第7話
「あら?お二人さんったら、何を悩んでるの?」
ドアの方を見ると、綺麗な着物をばっちりと着た中年の女性が立っていた。うちの商店街にある、スナックのママさんだ。
「おう、ママさん!ちょっと真純ちゃんの話を聞いてくれんか」
そういわれて、ママさんは僕の隣に来てくれる。僕はさっきぶり二度目となる経緯説明をした。今一番困っている「アマレット」というお酒の話をすると、ママさんの顔つきはパッと明るくなった。
「うちにあるわよ! しかもとっても余ってて、困っているのよ」
まさか本当にあると思わなくて、僕は驚いた。
「ほんと!?」
「ほんとよ! 全く、お客様がアマレットを使うカクテルが飲みたいって言うから買ったのに、そのお客様が全然来てくんないのよ、もう」
付いて来て、と言われてすぐ近くのスナックまで歩く。お昼の近い空模様は、からっと晴れている。ママのお店はほんのりたばこの匂いと、ママさんの香水のにおいがする。
きっと朝まで営業していたのだろうけれど、お店は綺麗にされている。ママさんはカウンターの向こうにあるお酒の棚を見て、その中からまだ八割ほどは残ったお酒の瓶を取り出した。それをそのまま渡さずに、小さなタッパーに移してもらった。製菓用に使うラム酒のように、甘い香りとアルコールの匂いがする。
タッパーをジップ付きの袋に入れたら、大きな文字で「製菓用」と書いてくれた。これで知り合いのおまわりさんに見つかるくらいなら事情をわかってくれるはず。
「ママさん、ありがとう」
「良いのよ! 出来上がったらわたしにも食べさせて」
そう言って、肩を叩かれる。
ママさんと一緒に師匠のお店へ戻ると、師匠と奥様が袋に何かを詰めていた。
「あ、真純ちゃんこれ持って行きな」
そう言って渡されたのは、マカロンの入ったラッピング袋だ。
「いろいろ読んでたら、マカロンを入れたプリン液に、ラム酒の代わりとしてアマレットを入れてもいいらしい。これ、結構余っちゃったから持って帰ってくれ」
師匠の言葉に合わせて、隣の奥様がサムズアップをする。
三人にお礼をして、僕は急いで家に帰った。帰ったらスーパーに行って、ココアを買いに行かなくては。
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