第14話 扉の向こう

 しばらく、何となくにらみ合いが続いたあと、アヴィアが沈黙を破った。

 「遅いね、あの子。林檎りんごを頼んだだけなのに」

 もとのあのふんわりしたきれいな声だった。

 チェルという子のことを言っている

 「寄り道してるか、あのお母さんがもっとたくさん買い物を頼んだか、それとももう帰ってるのに持って来てくれないか」

 そこで、カスティリナは考えつくことを言った。

 「どっちにしても、まだ林檎はあるし、もし買ってきてくれなくても間に合うだけの残りはあるからね」

 言って、カスティリナは立ち上がった。

 「じゃ、テーブル片づけようか」

 「そうだね。わたし、これ下に持っていくから、そのあいだにテーブルいて、寝床を作っておいてくれない?」

 アヴィアもさっさと立って鍋と皿の載った盆を手にする。

 いまさらそっちは自分がやるからと言うのも億劫おっくうで、カスティリナは立ち上がってそのアヴィアを見送る。

 この娘が重い鍋の載った盆を手にして扉を開けるのに手間取ったら「貸して」と言って替わってやろうと見ていたら、右の腕に盆を載せて器用に扉を開けてしまった。

 器用ぎようで、思い立ったらすぐに動いてしまう娘だ。

 貴族の出身で、公女を尊敬していなくて、家はセディーレ派かも知れないが、本人はセディーレ派の護民ごみん長官を嫌っている。身のこなしも早くて、力も強い。

 しかも、カスティリナをステッセン・フェルディエンドの娘だと知っていた。

 そして、その剣のことも。

 この娘の素姓は、そしてこの旅の目的は何なのだろうか。

 カスティリナは、アヴィアが律儀りちぎに閉めていった部屋の扉をしばらく見つづけていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る