第5話 心の穴を埋めるもの
少女は走り出し、私にそのナイフを突き立てる。
慌ててベッドに倒れ込んだ私のすぐ横に、ナイフが刺さった。
そして再び引き抜くと、少女は一心不乱にナイフを振り回す。
「な、やめなさい!」
「一緒に死んでください、ミルティアナ様」
「馬鹿なマネはやめなさい」
ベッドの上で、ナイフを押さえながらもみくちゃになる。
「いやぁ」
皮を突き抜けると、まるで熟れた果実のような柔らかい感触が手に伝わってくる。
そして吸い込まれるように、ナイフは体の中へと抵抗なく進んでいった。
それはなんとも形容しがたい初めての経験。
しかし罪にまみれたその行為は、私にはなによりも甘美に思えた。
「ど……どうして……」
虚ろな目が私を見る。その目は先ほどまでの光を湛えることはなく、ただ絶望に染まっていた。
私が彼女の体からナイフを引き抜けば、その顔が痛みと恐怖で満ち溢れる。
今までこんな風に歪んだ自分以外の顔など、見たことがあっただろうか。
「ふふふ。綺麗ね」
その顔も、この部屋を真っ赤に染める赤い血も。
自分には似つかわしくない白で統一されてきた私には、新しい世界が開けたように思えた。
だからこそ、よろよろと倒れ込む少女に馬乗りになり、何度も何度もその色を求めた。
そう、それが動かなくなるまで。
「あら、もう駄目なのね。残念」
ピクリとも動かなくなった少女の体と、切れ味のなくなったナイフを私は投げ捨てた。
今までとはまた違う行為に、今まで以上に満たされた気持ちになる。
これかもしれない。
私がずっと探していたものは。
こんなにも満たされるだなんて。
ああ。やっと幸せかもしれない。
「そうね。次を探さなくちゃ」
私は引き出しから護身用のナイフを取り出した。
心の穴を赤い世界で満たすために。
血に染まる聖女 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi
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