第4話 白いものを闇に染めて

 可愛い子たちを夜な夜な部屋に引き入れた。

 聖女という私の立場上、誰も拒否することはなかった。


 義父がしてきたように、顔を赤らめ涙を溜める顔を見ながら私は彼女たちの着替えを手伝う。


 服は側仕えの者に手に入れさせた、城で仕えるメイドたちの物だ。

 ここでの簡素なローブとは違い、体の曲線がよく浮き出ている。

 そして着替えが終わると、髪や首、鎖骨と順を追って上から下に触っていった。


「だっ……、だめです。こ、こんな」


 滑らかな肌が心地いい。

 どの子を触っても、大概の反応は同じだ。

 繰り返すうちにだんだんとその行為は大胆になっていく。


「も、もう……」


 恥ずかしさから顔を隠すと、私はそれを見逃さずに耳に甘嚙みをした。


「ひゃ」


 短く、甘い悲鳴を少女が上げる。

 そのか細い声すら、どこまでも可愛らしい。


「ふふふ。かわいい」


 今日は、この子でどこまで遊べるだろうか。

 そんな、ほの暗い思いが私の中を支配している。


「ミルティアナ様!」


 大きな声を上げらなら、側仕えの1人がこちらの返答を待たずに部屋へ入って来た。

 肩を震わせ、その顔は怒りに満ちている。


「どうしたの? そんな怖い顔をして。ああ、あなたはもう今日はいいわ。お部屋に戻りなさい」

「はい、ミルティアナ様」


 部屋にいた子は自分の服を抱えると、そそくさと部屋を出て行った。

 せっかくの楽しい時間が台無しね。


 ここからが楽しかったのに。

 どんだ興ざめだわ。


「急にどうしたの? 誰かにお茶でも持ってこさせる?」

「どうして……なのですか」

「なにが、どうしたというの? 順序立てて言ってくれないと分からないわ」


 そこまで言って、私はこの子の名前すら知らないことを思い出す。

 何日か前に相手をした子ということだけは、分かる。


 そもそも、私は誰か一人に固執しているわけではなかった。

 たくさんいるこの神殿の中の全てに触れ、この手で穢してしまいたかっただけだから。


「どうして他の子にも声をかけるのです! どうしてわたしだけではダメなのですか⁉」

「ん-。どうしてあなただけで、私が満たされると思うの?」


 私は恋愛がしたいわけではない。

 

 私を満たすものは、誰かではなく、その行為そのもの。

 この白い世界を黒く染めるという行為こそが、今私を満たしていた。

 それなのに、どうして1人の人間だけで満足できると言うのだろう。


 私は半ば呆れながら、ベッドの縁に腰を下ろした。

 この子にとっては、私1人だけだったのだとしても、それを押し付けられても困る。


 面倒な子ね。

 明日からでも、側仕えから外してもらわなきゃ。

 私の行為たのしみを邪魔する者など、必要ないわ。


「わたしにはミルティアナ様だけだったのに……」

「そうでしょうね。でもそのことと、私になんの関係があるというの?」

「それは」

「不誠実だとでも? あなた、たった一度のことで私の恋人にでもなったつもりなのかしら」

「!」


 肩を震わせながら、少女は大粒の涙を流していた。

 その涙はとても綺麗だったが、私にはただそれだけだ。


 涙は嫌いではないけど、これでは何も満たされない。

 時間の無駄ね。


 追い出そうとする私の目に、少女が持った光るものが見えた。

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