釣りスキルの真価



ユウキは異世界に転生してから数日が経過していた。その間、何度も自分のスキルに疑問を感じたが、それでも他のスキルを使えるようになるわけでもないし、ただ「釣りスキル」だけを手にしてしまった自分にどう向き合うべきか、悩む毎日が続いていた。


一度目の冒険で、何とか村を救ったものの、その時に得たのはただの小魚。それに満足してしまうわけでもなく、彼は心の中でさらに強くなることを誓っていた。


そして、ある日。


「うーん…こんなところで何をしてるんだろうな…。」


ユウキは湖のほとりで釣り竿を構えていた。今まで見たこともないような巨大な魚が跳ねる音を聞きながら、心の中で自問自答する。釣りスキルが本当に強さに繋がるのか、他の冒険者たちと比べても一向にその答えが見つからない。


「何かしら、突破口を見つけないと。」


その時だった。


「おい、あの若者! 釣りなんてしてる場合じゃないぞ!」


突然、背後から声が響いた。振り向くと、村の長老が慌てた様子で走ってきていた。


「どうしたんですか?」


ユウキはそのまま釣り竿を持ったまま立ち上がると、長老は息を切らしながら言った。


「村の近くに魔物が現れたんだ! しかも、異常に強い! 他の冒険者たちでも、どうにもならない!」


「魔物? どれくらいの強さですか?」


ユウキは目を見開いた。ついに来たのか、彼が今まで感じていた異世界での試練が。


「わからんが、何者かが召喚したらしい。お前の力を貸してくれ!」


ユウキはその言葉に驚きはしたものの、心の中で覚悟を決めた。今までどんな強さを持っていたとしても、釣りスキルは決して無駄ではない。彼が信じる力を使う時が来たのだ。


「わかりました。僕が行きます。」


ユウキは長老の背中を追い、村の外れへと向かう。


その途中、村人たちが恐れて家の中にこもっている様子が見受けられた。だが、ユウキは不安に感じながらも、焦らず、冷静に状況を把握しようとした。


「どんな魔物なんだろう。」


長老が言った通り、冒険者たちでも手をこまねいているという魔物。その魔物が現れる場所はすぐ近くだ。ユウキは釣り竿をしっかりと握り、進んでいった。


やがて、暗い森の中、目の前にその魔物の姿が現れる。目の前に立ちはだかっていたのは、体高が2メートル以上あり、全身が鋭い鱗で覆われた巨大な魔獣──「ギガント・リザード」だった。


「うわ…本当に強そうだな。」


ユウキはその魔物を見て、一瞬ひるんだが、すぐに釣り竿を構える。無謀に思えるかもしれないが、これが自分の選んだ道だ。


「釣りスキルで倒せるのか、試してみよう。」


ユウキは釣り糸を魔物に向かって投げ、スキル「釣り糸の結界」を発動させた。その瞬間、魔物の動きが一瞬止まる。釣り糸はただの糸ではなく、特別な魔法の力を帯びており、どんな魔物でも一瞬だけ動きを封じることができる。


「えっ…? 動きが…?」


ギガント・リザードが動きを止めた瞬間を見逃さず、ユウキはすぐに竿を引き寄せ、強引に釣り上げようとした。


だが、魔物の反応は早かった。暴れだしたリザードは、釣り糸を引き裂こうと全力で振り回す。


「こ、これで…!」


ユウキは力を込めて竿を引き、魔物の動きを封じるためにさらに糸を引き寄せる。その瞬間、予想以上の力を感じた。


「くっ…! でも、負けない!」


ユウキは全力で竿を引き、最後に「釣りスキル」の真髄を発動。魔物の動きが一瞬止まったその隙に、竿の先に引っかけた魔物を完全に引き寄せ、地面に倒れさせることに成功した。


その瞬間、周囲に驚きの声が上がった。


「す、すごい…本当に倒した…!」


長老が目を見開いて、信じられないものを見たように呟いた。その後、ユウキは釣り竿を軽く振るいながら、微笑んだ。


「これが、僕の釣りスキルだ。」


その時、ユウキは確信した。このスキルがどれほど価値のあるものか、そして異世界でどんな可能性を広げていけるかを。

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【無謀】釣りスキルだけで異世界最強を目指す─!?【異世界転移】 @ikkyu33

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